2026年11月07日

2026年11月9日|ちねん内科クリニック(川口市安行吉岡)
健診で「腎臓の数値(eGFR)が低い」「尿たんぱくが出ている」と言われたけれど、痛くもかゆくもないので、そのままにしている——そんな方は少なくありません。慢性腎臓病(CKD)は、日本の成人の約5人に1人、およそ2,000万人がかかっていると推計される、とても身近な病気です。そして腎臓は、一度悪くなると元には戻らない臓器でもあります。
いっぽうで、この10年でCKDの治療は大きく変わりました。昔からある血圧の薬(ARB・ACE阻害薬)に加えて、SGLT2阻害薬、MR拮抗薬(ケレンディア)、GLP-1受容体作動薬が、大規模な臨床試験で「腎臓を守る」ことを次々に証明し、いまでは「CKD治療の4本柱」と呼ばれています。
この記事では、循環器内科医の立場から、CKDでは何を見ればよいのか(クレアチニンではなくeGFR、そしてその「傾き」)、なぜ尿アルブミン(尿たんぱく)が大切なのか、4本柱の薬がそれぞれ誰にどう効くのかを、2026年11月時点の最新データでまとめました。
- 腎臓は一度失われた機能が戻らない臓器。治療の目標は「悪くしないこと」と「悪くなるスピードを落とすこと」です
- 見るべきはクレアチニン(Cr)ではなくeGFR、そして1回の値より「1年でどれだけ下がるか(eGFR slope)」です
- 尿アルブミン(尿たんぱく)は腎臓病の“目印”であると同時に、尿細管を傷める“犯人”でもあります
- 土台は血圧と血糖の管理。そのうえにARB・ACE阻害薬/SGLT2阻害薬/MR拮抗薬(ケレンディア)/GLP-1受容体作動薬(オゼンピック・マンジャロ)の4本柱を、糖尿病の有無とアルブミン尿の量に合わせて組み合わせます
- 飲み始めにeGFRが少し下がる「initial dip(初期低下)」は、薬の作用による想定どおりの変化で、多くは心配いりません
- 進行のサインがあれば腎臓内科と連携し、「二人主治医」で腎臓を守ります
1. CKD(慢性腎臓病)とは?——原因の多くは糖尿病と高血圧
CKDは一つの病名ではなく、腎臓の働きが少しずつ落ちていく状態をまとめた呼び名です。次のどちらか(または両方)が3か月以上続くと、CKDと診断されます。
- 腎臓が血液をろ過する力(eGFR)が60未満に下がっている
- 尿たんぱく(尿アルブミン)が出ているなど、腎臓が傷んでいるサインがある
原因はさまざまですが、大人のCKDの多くは糖尿病と高血圧から始まります。日本で新たに透析を始めた方の原因(2023年)を見ても、第1位が糖尿病による腎臓病(38.3%)、第2位が高血圧や加齢による腎硬化症(19.3%)で、IgA腎症などの慢性糸球体腎炎(13.6%)がこれに続きます。糖尿病や高血圧で通院している方は、それだけでCKDの“予備群”だと考えてください。
CKDは「腎臓だけの病気」ではありません。腎機能が落ちるほど心筋梗塞・脳卒中・心不全が起こりやすくなり、eGFRが60を下回る段階(G3a〜G4)では、心血管病で亡くなるリスクがCKDのない方の約2〜3倍になります。CKDの方が亡くなる主な原因も、心臓と血管の病気です。
だからこそ、腎臓を守る治療は、そのまま心臓を守る治療でもあります。このあと紹介する4本柱の薬の多くが、腎臓だけでなく心不全や心血管病も減らすことが確かめられているのは、そのためです。
2. 腎臓は「一度悪くなると戻らない」——だから予防がいちばん大切
腎臓には、血液をろ過する小さな装置「ネフロン」が、片方の腎臓に約100万個あるとされています。日本人では平均約64万個と少なめで、高血圧のある人ではさらに少なかったという報告もあります。そしてネフロンは、一度壊れると再生しません。
いくつかのネフロンが壊れると、残ったネフロンがその分の仕事を肩代わりし、1つあたりにかかる負担(ろ過の圧)が上がります。この「過剰ろ過」が続くと、残ったネフロンも早く傷み、さらに負担が増える——この悪循環によって、CKDはゆっくり、しかし確実に進んでいきます。
しかもCKDは、かなり進むまで症状がありません。むくみ・だるさ・貧血などが目立ってくるのは、多くの場合、腎機能が大きく落ちてからです。症状が出てから治療を始めたのでは、守れるネフロンはもうあまり残っていません。
CKD治療のゴールは「eGFRを元に戻すこと」ではなく、「eGFRが下がるスピードを遅くして、一生を透析なしで過ごすこと」です。そのためには、腎臓がまだ元気なうちに、健診の数値の変化に気づいて手を打つことが何より大切です。
3. 腎臓の状態は「eGFR」と「尿アルブミン(尿たんぱく)」の2つで見る
CKDの重症度は、eGFR(G1〜G5)と尿アルブミン・尿たんぱく(A1〜A3)の組み合わせで分類します。下の図で、右に行くほど(尿アルブミンが多いほど)、下に行くほど(eGFRが低いほど)、末期腎不全や心血管病のリスクが高くなります。
ここで注目していただきたいのは、同じeGFRでも、尿アルブミンが多いほどリスクが高いということです。たとえばeGFRが50(G3a)の場合、尿アルブミンが正常なら「やや高い」にとどまりますが、尿アルブミンが300 mg/gCr以上あれば「とても高い」に分類されます。腎臓の状態を正しく知るには、血液検査(eGFR)だけでなく、必ず尿の検査をセットで見る必要があります。
糖尿病の方は、早い段階の腎臓病を見つけるために「尿アルブミン(尿アルブミン/クレアチニン比)」を3か月に1回、保険診療で測ることができます。糖尿病のない方や、すでに尿たんぱくがはっきり出ている方は「尿たんぱく(尿たんぱく/クレアチニン比)」で評価します。どちらも1回の尿で調べられます。なお、健診の試験紙による「尿たんぱく(−・±・+)」は簡易検査のため、早い段階のわずかな変化(微量アルブミン尿)は見逃されがちです。
4. 「クレアチニン」ではなく「eGFR」、そして「eGFR slope(低下スピード)」を見る
クレアチニン(Cr)の数字だけでは分からない
クレアチニン(Cr)は筋肉から出る老廃物で、腎臓のろ過する力が落ちると血液中にたまっていきます。ただ、Crの値は筋肉の量に左右されるため、同じCrでも年齢や性別によって腎臓の働きはまったく違います。たとえば同じCr 0.8 mg/dLでも、30歳の男性ならeGFRは約93、80歳の女性なら約52です。そこで、Crに年齢と性別を加味して腎臓の働きを推定したのがeGFR(推算糸球体ろ過量)です。
もう一つの落とし穴は、CrとeGFRの関係が「反比例のカーブ」になっていることです。60歳の男性の場合、Crが0.8から1.0にわずか0.2上がっただけで、eGFRは約76から約60へ——腎臓の働きの約2割が失われています。一方、Crが2.0から3.0へ「1.0も」上がるときのeGFRの変化は、約28から約18です。Crの上がり方が小さく見える早い段階こそ、実は多くのネフロンが失われている時期なのです。しかもCr 1.0は、健診では「基準範囲内」(男性の基準範囲は0.65〜1.07 mg/dL)と判定されることがほとんどです。
1回の値より「傾き」——eGFR slope
eGFRは、その日の体調(水分のとり方、食事、運動など)によって数%は上下します。1回の結果に一喜一憂するのではなく、何回かの検査の流れから「1年でどれだけ下がっているか」を見ることが大切です。この1年あたりの低下量を「eGFR slope(イージーエフアール・スロープ)」と呼びます。
日本人の一般住民では、加齢によるeGFRの低下は年0.36程度と、とてもゆるやかです。ところが糖尿病や高血圧があり、尿アルブミンが出ている方では、低下はずっと速くなります。腎臓病の臨床試験でも、腎臓を守る薬を使わなかったグループのeGFRは年に3〜4のペースで下がっていました。下の図のように、今のeGFRが同じ60でも、年1ずつ下がる人と年5ずつ下がる人とでは、10年後の姿がまったく違います。
この「傾き」は、新しい腎臓の薬の効果を判定する物差しにもなっています。多くの臨床試験をまとめた解析では、治療によってeGFRの低下を年0.75(mL/分/1.73m²)ゆるやかにできれば、腎不全を減らす効果が高い確率で見込めることが示されています。4本柱の薬が「腎臓を守る」と言えるのは、まさにこの傾きをゆるやかにできるからです。
ご自身の数値の「流れ」を知っておきましょう。過去の健診結果や、他院での採血結果をお持ちいただくと、何年分もの流れからeGFRの傾きを確認できます。「去年より少し下がった」が毎年続いていないか——それがいちばん大切なチェックポイントです。
5. 尿アルブミン(尿たんぱく)はなぜ大事?——「目印」であり「犯人」でもある
腎臓のろ過装置である糸球体は、血液から老廃物と余分な水分だけをこし出し、アルブミンのような大切なたんぱく質は通さない、とても目の細かいフィルターです。尿にアルブミンが漏れてくるのは、このフィルターが傷んでいるか、糖尿病や高血圧によってフィルターに高すぎる圧がかかっているサインです。
「目印」として
尿アルブミンが多い人ほど、eGFRが速く下がり、透析に至りやすくなります。さらに尿アルブミンは、eGFRとは別に、心筋梗塞・脳卒中・心不全の危険因子でもあります。eGFRが正常でも、尿アルブミンが出ていれば「血管が傷み始めているサイン」と受け止める必要があります。
「犯人」として
アルブミン尿は、単なる目印ではありません。糸球体から漏れ出たアルブミンは、下流にある尿細管の細胞に回収されます。量が多いと細胞は処理しきれずに傷み、炎症を起こす物質を出し、周りの組織がだんだん硬くなっていきます(線維化)。尿細管が傷むと、その上流にあるネフロンも働けなくなります。つまり、アルブミン尿そのものが腎臓を壊していくのです。
だからこそ、尿アルブミンを減らすこと自体が治療の目標になります。多くの臨床試験をまとめた解析では、薬で尿アルブミンを約30%減らすと、腎不全などに至るリスクが平均で約2〜3割低くなることが示されています。4本柱の薬は、いずれも尿アルブミンを減らす作用を持っています。
6. すべての土台は「血圧」と「血糖」の治療
4本柱の薬は、あくまで土台の上に立つ柱です。CKDの多くは糖尿病と高血圧から始まるので、まずはこの2つをきちんと治療することが、腎臓を守るいちばんの基本になります。
| 項目 | 目標の目安 | ポイント |
|---|---|---|
| 血圧 | 診察室で130/80 mmHg未満 (家庭血圧125/75 mmHg未満) | 2025年の高血圧ガイドラインで、CKDの方も糖尿病や尿たんぱくの有無にかかわらず、原則この目標になりました。めまい・ふらつき、腎機能やカリウムの変化に注意しながら、無理なく下げていきます。糖尿病がなく尿たんぱくも出ていない方は、段階的に慎重に下げます |
| 血糖 | HbA1c 7.0%未満 (合併症予防の目安) | 低血糖を起こさないことも同じくらい大切です。年齢や体の状態に合わせて目標を決めます |
| 塩分 | 1日6g未満 | CKDでは塩分で血圧が上がりやすく、尿たんぱくも増えます。減塩はARBなどの効果も高めます |
| 脂質 | LDLコレステロールの管理 | CKDは心筋梗塞のハイリスク。スタチンなどで心血管病を予防します |
| 禁煙・体重 | 禁煙、肥満の解消 | 喫煙はCKDの進行と心血管病の両方を早めます |
腎臓に負担をかける薬に注意。ロキソプロフェン(ロキソニン)やイブプロフェンなどの痛み止め(NSAIDs)は、腎臓の血流を減らして腎機能を悪くすることがあります。CKDの方が痛み止めを使うときは、アセトアミノフェン(カロナールなど)を基本にし、市販薬やサプリメントも含めて医師・薬剤師にご相談ください。また、下痢・嘔吐・食事がとれない・大量の汗などによる脱水も、腎臓には大きな負担になります。
7. CKD治療の「4本柱」——全体像
CKDの薬物治療は、この10年で「血圧を下げる」だけの時代から、「腎臓そのものを守る薬を組み合わせる」時代になりました。現在、大規模な臨床試験で腎臓を守ることが証明されている薬は、大きく4つのグループに分けられます。
| 柱 | 代表的な薬 | 主なしくみ | 特に効果が確かめられている方 |
|---|---|---|---|
| ① ARB・ACE阻害薬 | テルミサルタン(ミカルディス)、アジルサルタン(アジルバ)など | 糸球体の出口の血管を広げて、フィルターにかかる圧を下げる | 尿アルブミン(尿たんぱく)が出ている方。とくに高血圧のある方 |
| ② SGLT2阻害薬 | フォシーガ、ジャディアンス、カナグル | 糸球体の入口の血管を少し絞って過剰ろ過を解消し、尿細管の負担も軽くする | 糖尿病の有無やアルブミン尿の量にかかわらず、幅広いCKDの方(カナグルは2型糖尿病のある方) |
| ③ MR拮抗薬 | ケレンディア(フィネレノン) | 腎臓・心臓の「炎症と線維化のスイッチ(MR)」をブロックする | 2型糖尿病の腎臓病で尿アルブミンが出ている方(糖尿病のない方でも有望なデータ) |
| ④ GLP-1受容体作動薬 | オゼンピック、マンジャロ(GIP/GLP-1受容体作動薬) | 血糖・体重・血圧を下げ、炎症を抑える | 2型糖尿病の腎臓病で尿アルブミンが出ている方 |
8. 柱① ARB・ACE阻害薬——アルブミン尿を減らす“元祖”の腎保護薬
ARB(アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬)とACE阻害薬は、血圧を上げるホルモン「アンジオテンシンⅡ」の働きを抑える薬です。全身の血圧を下げるだけでなく、糸球体の出口側の血管(輸出細動脈)を広げることで、フィルターにかかる圧を直接下げます。その結果、尿アルブミンが減り、働きすぎていたネフロンの負担がやわらぎます。
30年以上積み重ねられてきたエビデンス
腎臓を守る薬として、最も長い歴史を持つのがこのグループです。1993年に、ACE阻害薬(カプトプリル)が1型糖尿病の腎臓病で死亡・透析・腎移植を約半分に減らすことが示されたのが始まりでした。2001年には、2型糖尿病の腎臓病を対象にしたRENAAL試験(ロサルタン)とIDNT試験(イルベサルタン)で、ARBが腎臓病の進行(クレアチニンの倍増・末期腎不全・死亡をあわせたイベント)を減らすことが示されました(末期腎不全そのものの減少はRENAAL試験で確認されています)。糖尿病のない、尿たんぱくの多い腎臓病でも、ACE阻害薬(ラミプリル)が腎機能の低下を遅らせることが示されました(REIN試験)。
日本人の2型糖尿病の方を対象にしたINNOVATION試験では、テルミサルタンが、微量アルブミン尿の段階から、はっきりした腎症(顕性腎症)への進行を大きく抑えました(約1.3年間で、プラセボ49.9%に対しテルミサルタン80mgで16.7%)。
代表的な薬
- テルミサルタン(ミカルディス):作用時間が長く、1日1回で24時間しっかり血圧を下げるARBです。日本人での腎保護のデータ(INNOVATION試験)があります
- アジルサルタン(アジルバ):日本で開発された、降圧力の強いARBです。CKDの方を対象にした国内の小規模な比較試験では、カンデサルタンより尿たんぱくを抑える効果が大きかったと報告されています
使い方のポイント:尿アルブミンが出ている方では、副作用がなければしっかりした量まで増やすのが基本です。飲み始めや増量の2〜4週間後に、腎機能(eGFR)とカリウムを確認します。なお、ARBとACE阻害薬の併用は行いません。高カリウム血症や急性腎障害が増える一方で、腎臓を守る効果の上乗せは確認されなかったためです。また、妊娠中・妊娠の可能性がある方には使えません。
9. 柱② SGLT2阻害薬——アルブミン尿の有無にかかわらず、eGFRの低下をゆるやかに
SGLT2阻害薬は、もともとは尿から糖を出して血糖を下げる糖尿病の薬です。ところが腎臓では、糸球体の入口の血管を少し絞って過剰ろ過を解消し、尿細管の仕事量(酸素の消費)も減らして、腎臓の「過労」をやわらげることがわかりました。この働きは血糖を下げる作用とは関係がないため、糖尿病のない方にも効果があります(くわしいしくみはSGLT2阻害薬の記事をご覧ください)。
| 試験(薬) | 対象 | 主な結果 |
|---|---|---|
| CREDENCE (カナグル)2019年 | 2型糖尿病で尿アルブミンが多い(300 mg/gCr超)CKDの方 4,401人 | 末期腎不全・Crの倍増・腎臓または心血管による死亡を30%減少 |
| DAPA-CKD (フォシーガ)2020年 | 糖尿病の有無を問わないCKD(eGFR 25〜75、尿アルブミン200 mg/gCr以上)4,304人 | eGFRの50%以上の低下・末期腎不全・腎臓または心血管による死亡を39%減少。糖尿病のない方でも同様の効果 |
| EMPA-KIDNEY (ジャディアンス)2023年 | 糖尿病の有無を問わないCKD 6,609人。eGFR 20〜45ならアルブミン尿がなくても参加 | 腎臓病の進行・心血管死を28%減少。eGFRの年間低下を約半分に |
なかでも重要なのが、アルブミン尿が少ない方でもeGFRの低下がゆるやかになったことです。EMPA-KIDNEY試験では、尿アルブミンがほとんど出ていない方(30 mg/gCr未満)でも、eGFRの年間低下スピードがはっきり小さくなりました。さらに、約7万人が参加した10の臨床試験をまとめた2026年の解析(SMART-C)でも、SGLT2阻害薬はeGFRやアルブミン尿の程度にかかわらず腎臓病の進行を約4割減らし、すべてのグループでeGFRの低下スピードをゆるやかにすることが確認されています。
日本では、フォシーガ(2021年)とジャディアンス(2024年)が糖尿病の有無にかかわらず「慢性腎臓病」の治療薬として、カナグルは「2型糖尿病を合併する慢性腎臓病」の治療薬として承認されています。国際的なガイドライン(KDIGO 2024)でも、eGFRが20以上の幅広いCKDの方にSGLT2阻害薬がすすめられています。
シックデイには休薬を。食事がとれない、嘔吐・下痢がある、高い熱があるときは、脱水などを防ぐために休薬します。手術や検査で絶食になるときも、事前の休薬が必要です。具体的な対応はSGLT2阻害薬の記事でくわしく紹介しています。
10. 柱③ MR拮抗薬(ケレンディア)——糖尿病+アルブミン尿の方に。糖尿病がない方でも有望なデータ
腎臓や心臓には、ミネラルコルチコイド受容体(MR)という“スイッチ”があります。糖尿病やCKDでは、このスイッチが入りっぱなしになり、炎症と線維化(組織が硬くなること)を進めてしまいます。ケレンディア(一般名フィネレノン)は、このMRを選んでブロックする、新しいタイプ(非ステロイド型)のMR拮抗薬です。
ARBやSGLT2阻害薬が主に糸球体の「圧」を下げる薬だとすると、ケレンディアは「炎症・線維化」という別の経路を抑える薬です。働く場所が違うため、ほかの柱に上乗せする形で効果を発揮します。昔からあるMR拮抗薬(スピロノラクトン、エプレレノン)とは性質が異なり、腎臓病の進行を抑えることが大規模な臨床試験で確かめられているのはケレンディアです(従来のMR拮抗薬についてはMR拮抗薬の記事をご覧ください)。
| 試験 | 対象 | 主な結果 |
|---|---|---|
| FIDELIO-DKD(2020年) FIGARO-DKD(2021年) | 2型糖尿病で尿アルブミンが出ている(30 mg/gCr以上)CKDの方。ARBまたはACE阻害薬を十分に使ったうえで上乗せ(2試験で約1万3千人) | 2試験の統合解析で、末期腎不全・eGFRの大きな低下などの腎イベントを23%、心血管死・心筋梗塞・脳卒中・心不全入院を14%減少 |
| FIND-CKD(2026年) | 糖尿病のないCKD(慢性腎炎や高血圧などが原因)の方 1,584人 | eGFRの年間低下が−4.0 → −3.3(年0.7ゆるやか)。腎臓と心血管をあわせたイベントも23%減少 |
2026年6月に発表されたFIND-CKD試験は、糖尿病のないCKDを対象にした、これまでで最大規模のケレンディアの試験です。主な評価項目であるeGFRの低下スピードがはっきり改善し、糖尿病がなくても効く可能性を示しました。FIND-CKDを含む3試験・約1万4,600人をまとめた解析(INFINITY)でも、腎イベントを24%、心不全入院または心血管死を20%減らす結果でした。
ただし、FIND-CKDの参加者の多くはSGLT2阻害薬を使っていなかったため、SGLT2阻害薬に上乗せしたときの効果は、これから確かめていく必要があります。また、日本では現在、ケレンディアの保険適応は「2型糖尿病を合併する慢性腎臓病」と「慢性心不全」で、糖尿病のないCKDには使えません。2026年8月にCKD領域での適応拡大が申請されており、今後の承認が待たれます(2026年11月時点)。
使い方のポイント:主な注意点は高カリウム血症です。開始前と開始後(1か月後など)にカリウムとeGFRを確認し、カリウムが高めの方には使いません。ケレンディアとジャディアンスを同時に始めた試験(CONFIDENCE)では、尿アルブミンが半年で52%減り、それぞれ単独(約3割減)より大きく減ったうえ、高カリウム血症はケレンディア単独よりやや少ない結果でした。
11. 柱④ GLP-1受容体作動薬(オゼンピック)・GIP/GLP-1受容体作動薬(マンジャロ)
週1回の注射で血糖を下げ、体重と血圧も下げる糖尿病の薬です。腎臓では、こうした効果に加えて炎症を抑える作用なども働いて、腎臓を守ると考えられています(くわしくはGLP-1受容体作動薬の記事をご覧ください)。
- オゼンピック(セマグルチド):2型糖尿病でアルブミン尿のあるCKDの方3,533人を対象にしたFLOW試験(2024年)で、末期腎不全・eGFRの50%以上の低下・腎臓または心血管による死亡を24%減少させました。eGFRの年間低下は−3.36 → −2.19(年1.16ゆるやか)になり、心血管死も29%、総死亡も20%減っています。GLP-1受容体作動薬として初めて、腎臓を主な目的にした大規模試験で効果が証明された薬です
- マンジャロ(チルゼパチド):GIPとGLP-1の2つのホルモンに働く薬で、血糖と体重を下げる力が特に強いのが特徴です。腎臓を主な目的にした大規模試験の結果はまだありませんが、2型糖尿病と心血管病のある約1万3千人でトルリシティと比べたSURPASS-CVOT試験の解析では、マンジャロのほうが腎イベント(アルブミン尿の悪化・eGFRの大きな低下など)が23%少なく、eGFRの低下もゆるやかでした。インスリンと比べた試験(SURPASS-4)の解析でも、尿アルブミンの減少とeGFRの低下抑制が報告されており、腎臓のエビデンスが着実に積み上がってきています
当院では、心臓と腎臓のエビデンスが最も強いオゼンピックと、血糖・体重を下げる力が強く心腎のデータもそろいつつあるマンジャロを、患者さんの状態に合わせて使い分けています。なお、日本でこれらの薬が保険で使えるのは2型糖尿病の方です。糖尿病のないCKDでの腎臓への効果は、まだ十分に確かめられていません(当院では美容・痩身目的の処方は行っていません)。
12. 4本柱をどう組み合わせる?——「糖尿病の有無」と「アルブミン尿」で考える
4本柱は、全員が4つとも必要なわけではありません。糖尿病があるかどうかと、尿アルブミン(尿たんぱく)が出ているかどうかによって、効果が確かめられている柱が違うからです。目安は次のとおりです。
| CKDのタイプ | 中心になる柱 | 補足 |
|---|---|---|
| 2型糖尿病 +尿アルブミンあり | ①ARB・ACE阻害薬②SGLT2阻害薬③ケレンディア④GLP-1受容体作動薬 | 4本すべてにエビデンスがあるタイプです。安全を確認しながら、順に重ねていきます |
| 2型糖尿病 +尿アルブミンなし | ②SGLT2阻害薬 高血圧があれば①、血糖や心血管のために④ | SGLT2阻害薬はeGFRの低下を抑え、心不全も予防します。ケレンディアは尿アルブミンが出ている方が対象です |
| 糖尿病なし +尿たんぱくあり | ①ARB・ACE阻害薬②SGLT2阻害薬 | SGLT2阻害薬はフォシーガ・ジャディアンスが使えます。ケレンディアはFIND-CKDで有望ですが、国内ではまだ適応外です。慢性腎炎などの原因の精査は腎臓内科で |
| 糖尿病なし +尿たんぱくなし | 血圧の管理が中心。eGFRが20〜45なら②SGLT2阻害薬 | 高血圧による腎硬化症や加齢などが多いタイプです。低下スピード(eGFR slope)が速い場合は、治療を強化します |
薬は一度に全部を始めるのではなく、1つずつ(または2つ同時に)始めて、2〜4週間後に腎機能とカリウムを確認しながら重ねていくのが基本です。最近は、効果が出るまでの時間を短くするために、早めに組み合わせる考え方も広がっています。また、SGLT2阻害薬には、ARBやケレンディアで起こりやすい高カリウム血症を減らす方向の作用も報告されており、ほかの柱との相性が良い薬です。
13. 飲み始めの「initial dip」——eGFRが少し下がっても慌てないで
ARB・ACE阻害薬、SGLT2阻害薬、ケレンディアを始めると、2〜4週間ほどでeGFRが少し下がることがあります。これを「initial dip(イニシャル・ディップ:初期低下)」と呼びます。
なぜ下がるの?
これらの薬は、糸球体にかかる圧を下げて過剰ろ過を解消します。圧が下がると、その分だけろ過される量も一時的に減るため、eGFRが下がって見えるのです。ネフロンが壊れたわけではなく、「働きすぎていたネフロンが休めるようになった」ことによる変化で、薬をやめれば元に戻ります。
その後はどうなるの?
過労から解放されたネフロンは長持ちするため、その後のeGFRの低下はゆるやかになり、1〜2年ほどで、治療しなかった場合を上回ります(下の図)。実際、EMPA-KIDNEY試験では、ジャディアンスを始めた最初の2か月でeGFRが約2(約6%)下がった一方、その後の年間低下は−2.75 → −1.37とほぼ半分になりました。
どのくらいの低下なら大丈夫? ARB・ACE阻害薬では、開始・増量から4週間以内のクレアチニンの上昇が30%以内(eGFRでいえば、およそ25%以内の低下)であれば、想定内の変化として治療を続けるのが国際的なガイドライン(KDIGO)の考え方です。SGLT2阻害薬による低下はそれより小さく、多くは数%〜1割程度です。なお、dipがはっきり出なくても効果がないわけではありません。SGLT2阻害薬では、dipの有無にかかわらず腎臓を守る効果が同じように得られることが示されています。
ただし、低下が大きすぎる、カリウムが高い、脱水(嘔吐・下痢・食事がとれない)がある、急に体調が悪くなったといった場合は、別の原因がないかを調べて対応します。自己判断で薬をやめたり減らしたりせず、まずはご相談ください。当院では、開始・増量の2〜4週間後をめどに採血でeGFRとカリウムを確認し、initial dipの範囲かどうかを一緒に確認しています。
14. 腎臓内科との連携——「二人主治医」で腎臓を守る
CKDの多くは、かかりつけ医で血圧・血糖の管理と4本柱の治療を続けることができます。一方で、次のような場合には、腎臓内科(腎臓専門医)と連携して診ていくことが大切です。
- 原因をはっきりさせる必要があるとき:尿たんぱくと血尿が両方出ている、若いのにeGFRが低いなど。IgA腎症などの慢性腎炎は、腎生検で診断し、専門的な治療で進行を抑えられることがあります
- 治療を強化する必要があるとき:4本柱を使っても尿たんぱくが減らない、eGFRの低下が速い
- 腎機能がかなり低下したとき:貧血・骨・カリウムの管理や、透析・腎移植などの準備(腎代替療法の選択)
日本腎臓学会が作成した紹介基準の目安は次のとおりです。
| eGFR | 尿アルブミン・尿たんぱく 正常(A1) | 軽度(A2) | 高度(A3) |
|---|---|---|---|
| 60以上(G1・G2) | 経過観察 | 血尿もあれば紹介 | 紹介 |
| 45〜59(G3a) | 40歳未満は紹介 | 紹介 | 紹介 |
| 45未満(G3b〜G5) | 紹介 | 紹介 | 紹介 |
※上記以外でも、3か月以内に30%以上の腎機能の悪化がある場合は速やかに紹介します(日本腎臓学会作成・日本医師会監修「かかりつけ医から腎臓専門医・専門医療機関への紹介基準」をもとに作成)。
紹介したら終わり、ではありません。腎臓内科で原因の精査や治療方針の決定をしていただき、ふだんの血圧・血糖の管理や薬の調整は当院で続ける——お互いに情報を共有しながら診ていく「二人主治医」の形で、患者さんの腎臓を守っていきます。
15. よくある質問
一度下がったeGFRは、治療でまた上がりますか?
失われたネフロンは元に戻らないため、基本的に「元の値まで戻す」ことは難しいです。ただ、脱水や痛み止めなど一時的な原因で下がっていた分は、原因を取り除くと回復することがあります。治療の目標は、残っているネフロンを長持ちさせて、下がるスピードを最小限にすることです。
4種類も薬を飲まないといけないのですか?
全員が4種類必要なわけではありません。糖尿病の有無や尿アルブミンの量によって、効果が確かめられている柱が違います(12章の表)。ARBのように、すでに血圧の薬として飲んでいる方が多い薬もあります。腎臓の状態と体への負担のバランスを考えて、一緒に決めていきます。
糖尿病ではないのに、「糖尿病の薬」のSGLT2阻害薬を勧められました。
SGLT2阻害薬は、血糖を下げる作用とは別のしくみで腎臓を守るため、糖尿病のない方にも効果があります。フォシーガとジャディアンスは、糖尿病の有無にかかわらず「慢性腎臓病」の治療薬として承認されています。糖尿病のない方が単独で使って低血糖を起こすことは、ほとんどありません。
飲み始めてからeGFRが下がりました。やめたほうがいいですか?
自己判断でやめないでください。多くは「initial dip」と呼ばれる、薬の作用による想定どおりの一時的な変化です。下がり方が大きすぎないか、カリウムや脱水の有無を確認したうえで、続けるかどうかを医師が判断します。
カリウムが高めと言われました。野菜や果物は控えるべきですか?
カリウムの制限が必要かどうかは、血液検査の値と腎機能によって変わります。自己判断で野菜や果物を極端に減らす必要はありません。カリウムが高い場合でも、食事の調整やカリウムを下げる薬を使いながら、腎臓を守る薬をできるだけ続ける方法を考えます。なお、カリウムを含む「減塩しお」は、CKDの方やARB・ケレンディアなどを飲んでいる方は、使う前に必ずご相談ください。
透析にならずにすみますか?
早い段階から血圧・血糖の管理と4本柱の治療を続ければ、eGFRの低下スピードを大きく遅らせることができます。たとえば低下スピードを半分にできれば、末期腎不全に至るまでの時間は理論上2倍に延びます。一生を透析なしで過ごしていただくことが、私たちの治療の目標です。
16. こんなときはご相談ください
| こんなとき | 受診の目安 |
|---|---|
| 健診で「尿たんぱく(+)以上」「eGFR 60未満」と言われた | 早めに受診(再検査で確認します) |
| 糖尿病・高血圧で治療中なのに、尿アルブミン(尿たんぱく)を測ったことがない | 次の受診時にご相談ください |
| eGFRが前回より大きく下がった(3か月で3割以上など) | 早めにご相談ください |
| 足のむくみ、息切れ、尿の泡立ちが続く | 早めに受診 |
| SGLT2阻害薬(フォシーガ・ジャディアンス・カナグル)を飲んでいて、食事がとれない・嘔吐・下痢がある | SGLT2阻害薬は休薬し、当日中にご連絡ください(ほかの薬は自己判断でやめず、指示を確認してください) |
腎臓・高血圧・糖尿病のご相談は、ちねん内科クリニックへ
ちねん内科クリニック(内科・循環器内科)
当院は、循環器内科医が高血圧・糖尿病・脂質異常症をまとめて診るクリニックです。eGFRと尿アルブミン(尿たんぱく)を定期的に確認し、腎臓の数値の「流れ」を一緒に見ながら、4本柱の薬を安全に組み合わせていきます。心エコー・BNP・ABI(血管年齢)などで心臓と血管の状態もあわせて確認し、必要なときは腎臓内科の専門医と連携して診療します。
- 所在地:埼玉県川口市安行吉岡
- 診療時間:9:00〜13:00/15:00〜18:00
- 休診日:金曜・土曜(日曜は午前のみ)
- 健診で「腎機能」「尿たんぱく」を指摘された方も、お気軽にご相談ください
※この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個々の患者さんの診断・治療に代わるものではありません。薬の選択・用量・休薬の判断は、医師が診察のうえで行います。記載した臨床試験の数値は、それぞれの試験に参加した方々の平均値であり、個人の効果を保証するものではありません。図3・図6は理解を助けるための模式図です。承認状況などは2026年11月時点の情報です。
- 日本腎臓学会 編. CKD診療ガイド2024. 東京医学社; 2024.
- 日本腎臓学会 編. エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023. 東京医学社; 2023.
- 日本透析医学会. わが国の慢性透析療法の現況(2023年12月31日現在).
- Kidney Disease: Improving Global Outcomes (KDIGO) CKD Work Group. KDIGO 2024 Clinical Practice Guideline for the Evaluation and Management of Chronic Kidney Disease. Kidney Int. 2024;105(4S):S117-S314.
- 日本高血圧学会 高血圧管理・治療ガイドライン作成委員会 編. 高血圧管理・治療ガイドライン2025. 2025.
- 日本腎臓学会(作成)・日本医師会(監修). かかりつけ医から腎臓専門医・専門医療機関への紹介基準. 2018.
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