2026年10月31日

「健診でHbA1cが高めと言われたけれど、どこも痛くないし、何をすればいいの?」
健診結果に「要再検査」「要精密検査」「要医療」と書かれていても、自覚症状はまったくない。そのため「来年の健診まで様子を見よう」と結果表を引き出しにしまってしまう方がとても多いのが実情です。
実際、厚生労働省の調査では糖尿病が強く疑われる人は約1,100万人と推計され、そのうち治療を受けているのは約7割にとどまります(令和6年 国民健康・栄養調査)。残りの約3割の方は、血管が静かに傷んでいく状態を放置していることになります。
この記事では、初めて健診で血糖値やHbA1cの異常を指摘された方に向けて、循環器内科医の立場から「数値の見方」「受けるべき検査」「注意すべき症状」「今日からできる生活習慣の見直し」「受診の目安」をお伝えします。
- HbA1cとは何か、健診の数値をどう読めばよいか
- 「少し高いだけ」でも放置してはいけない理由
- 医療機関で受けるべき検査
- 数値にかかわらずすぐ受診すべき症状
- 今日から見直せる食事・運動・睡眠のポイント
- 受診の目安と、当院でできること
1. HbA1cとは? ―「過去1〜2か月の血糖の通信簿」
HbA1c(ヘモグロビン・エーワンシー)は、赤血球の中にあるヘモグロビンに、ブドウ糖が結合している割合(%)を示す数値です。赤血球の寿命は約120日。そのため、HbA1cは過去1〜2か月間の血糖値の平均を反映します。
血糖値が「今この瞬間のスナップ写真」だとすれば、HbA1cは「ここ1〜2か月の通信簿」。健診の前日に食事を控えても、HbA1cは下がりません。だからこそ、普段の生活習慣が正直に表れる、信頼性の高い指標なのです。
Dr.
外来で「健診の前日だけ節制したんです」「前の晩に飲みすぎたから悪かっただけ」という声をよく聞きますが、HbA1cには当てはまりません。少し高いということは、ここ数か月の血糖が高めだったというサインです。
貧血(鉄欠乏では高めに、出血や溶血では低めに出ます)、腎臓病、肝臓病、妊娠中などでは、HbA1cが実態を反映しないことがあります。医療機関では血糖値とセットで評価するのが基本です。
2. 健診の数値はどう読む? HbA1c・血糖値の判定基準
特定健診(メタボ健診)では、厚生労働省が定めた判定値が使われています。ご自身の結果表と照らし合わせてみてください。
■ HbA1c(%)の見方
| HbA1c | 健診の判定 | 意味と、とるべき行動 |
|---|---|---|
| 5.5%以下 | 基準範囲内 | 現状維持。年1回の健診を続けましょう。 |
| 5.6〜5.9% | 保健指導判定値 | 糖尿病予備群の入り口。生活習慣の見直しを始めましょう。血圧・脂質・肥満・家族歴など他のリスクもある方は、一度ご相談ください。 |
| 6.0〜6.4% | 受診勧奨 (精密検査) |
糖尿病の可能性が否定できない段階。医療機関で血糖値の再検査やブドウ糖負荷試験を受け、「予備群」か「糖尿病」かをはっきりさせましょう。 |
| 6.5%以上 | 受診勧奨 (糖尿病型) |
糖尿病が強く疑われます。できるだけ早く(目安は1か月以内)医療機関を受診してください。 |
■ 空腹時血糖(mg/dL)の見方
| 空腹時血糖 | 判定 |
|---|---|
| 99以下 | 基準範囲内 |
| 100〜109 | 正常高値(保健指導判定値)― 生活習慣の見直しを |
| 110〜125 | 境界型(糖尿病予備群)― 医療機関で精密検査を |
| 126以上 | 糖尿病型― 早めに受診を |
※ 食後など空腹時以外に採血した「随時血糖」は、200mg/dL以上で糖尿病型と判定されます。
同じ日の検査で血糖値とHbA1cの両方が糖尿病型であれば糖尿病と診断されますが、HbA1cだけが高い場合は、別の日にもう一度検査して確認するのがルールです。つまり、健診で1回高かっただけでは診断は確定しません。だからこそ「本当に糖尿病なのか、まだ予備群なのか」を確かめるために、医療機関での検査が必要なのです。
3. なぜ「少し高いだけ」でも放置してはいけないのか
3-1. 症状がないのは「軽い」からではありません
のどの渇きや尿の増加といった高血糖の症状が出るのは、多くの場合、血糖値がかなり高くなってからです。HbA1cが6〜7%台の段階では、無症状がふつう。しかしその間も、血管は少しずつ傷んでいきます。糖尿病が「サイレントキラー(静かな殺し屋)」と呼ばれるのはこのためです。
3-2. 糖尿病は「血管の病気」です
高血糖が続くと、全身の血管がダメージを受けます。合併症は、傷む血管の太さで2つに分けて覚えると分かりやすいです。
- し…神経障害(手足のしびれ・感覚の低下)
- め…目(網膜症 → 視力低下・失明)
- じ…腎症(腎臓の機能低下 → 人工透析)
- え…壊疽(足の血流が途絶え、切断に至ることも)
- の…脳梗塞
- き…虚血性心疾患(狭心症・心筋梗塞)
日本で人工透析が必要になる原因の第1位は糖尿病による腎症です。目や腎臓、神経は一度壊れると元に戻すことが難しく、「気づいたときには手遅れ」になりやすい臓器です。
3-3. 「予備群」の段階でも、心筋梗塞・脳梗塞のリスクは上がっています
「まだ糖尿病じゃないから大丈夫」と思われがちですが、日本の疫学研究(山形県・舟形町研究)では、糖尿病予備群(境界型)の段階ですでに、心血管疾患で亡くなるリスクが正常の人の約2倍に高まることが示されています。
また海外の研究では、心筋梗塞で入院した患者さんのうち「糖尿病と診断されていなかった人」を詳しく調べると、約3人に2人に糖尿病または予備群が見つかったと報告されています。心臓の血管は、「糖尿病」と診断されるずっと前から傷み始めているのです。
Dr.
私は循環器内科医として、心筋梗塞や心不全になってから「何年も前の健診で血糖が高いと言われていたんです」と話す患者さんを何人も診てきました。健診で指摘された「今」が、いちばん軽く・安く・楽に対処できるタイミングです。
4. 受診したら、何を検査するの?
医療機関で行う検査の目的は大きく2つ。①本当に糖尿病なのかを確かめること、②すでに血管や臓器に影響が出ていないかを調べることです。初診時にすべてを行うわけではなく、結果に応じて必要なものを選びます。
① 糖尿病かどうかを確かめる検査
| 検査 | 何がわかるか |
|---|---|
| 血糖値+HbA1cの再検査 | 健診とは別の日に測ることで、診断を確定させます。空腹時に採血できるとより正確です。 |
| 75g経口ブドウ糖負荷試験 (OGTT) |
境界域の方の精密検査。空腹でブドウ糖液を飲み、2時間後までの血糖の動きを見ます。健診の空腹時血糖では見つからない「食後高血糖(隠れ糖尿病)」がわかります。 |
| インスリンの分泌・効き具合 (血中インスリン・Cペプチド・HOMA指数) |
「インスリンが足りない」タイプか「インスリンが効きにくい」タイプかで、治療方針や使う薬が変わります。 |
② 合併症・動脈硬化・併せ持つ病気を調べる検査
| 検査 | 何がわかるか |
|---|---|
| 尿検査 (尿糖・尿蛋白・尿アルブミン) |
腎臓へのダメージを早期に発見します。尿アルブミンは腎症のもっとも早いサインで、この段階なら回復が期待できます。 |
| 血液検査 (腎機能 eGFR・肝機能・脂質・尿酸) |
脂肪肝、脂質異常症、高尿酸血症など、高血糖と「仲間」の病気をまとめてチェックします。 |
| 血圧・体重・BMI・腹囲 | メタボリックシンドロームの評価。血糖・血圧・脂質・内臓脂肪が重なるほど、心血管リスクは掛け算で増えます。 |
| 心電図・心エコー・ABI(血圧脈波) | 心臓の状態と、動脈硬化がどこまで進んでいるか(血管年齢・足の血流)を調べます。循環器内科ならではの視点です。 |
| 腹部エコー | 脂肪肝の程度や膵臓の状態を確認します。急に血糖が上がった・体重が減っている場合は、膵臓の病気が隠れていないかの確認が大切です。 |
| 眼底検査(眼科) | 糖尿病と診断されたら、網膜症の有無を眼科で確認します。自覚症状がなくても年1回が目安です。 |
| 睡眠時無呼吸の検査 | いびき・日中の眠気・夜間頻尿がある方に。睡眠時無呼吸は血糖と血圧を悪化させるため、治療すると数値が改善することがあります。 |
5. こんな症状があれば、数値にかかわらず早めに受診を
次のような症状は、血糖がかなり高くなっているサインかもしれません。健診の判定が「要再検査」程度でも、当てはまるものがあれば早めに受診してください。
- のどが渇く、水分をたくさん飲むようになった
- 尿の回数や量が増えた(夜中にトイレで起きる)
- 食べているのに体重が減ってきた
- 強いだるさ、疲れやすさが続く
- 目がかすむ、視力が急に落ちた
- 手足のしびれ、足の裏に紙が貼りついたような違和感
- 傷が治りにくい、皮膚の化膿やできものを繰り返す
- 尿が泡立つ、足がむくむ
【緊急】強い口渇に加えて、吐き気・腹痛・意識がぼんやりするといった症状がある場合は、高血糖による緊急状態の可能性があります。ためらわず救急受診してください。
6. 今日から見直したい生活習慣 ― 優先順位つき
「全部やらなきゃ」と思うと続きません。効果が大きい順に並べましたので、上から一つずつ取り入れてみてください。
🍚 食事 ― 「抜く」より「減らす・順番を変える」
- 【最優先】甘い飲み物をやめる
ジュース、スポーツドリンク、加糖の缶コーヒー、エナジードリンク、甘いチューハイ。「飲む糖質」は吸収が速く、血糖を急上昇させます。水・お茶・無糖に替えるだけで、大きく変わる方が多いです。 - 主食は「抜く」のではなく「2割減らす」
ごはんは茶碗にふんわり軽めに、麺の大盛り・おかわりをやめる。極端な糖質制限は不要で、続かないうえに筋肉が落ちます。 - 食べる順番:野菜 → たんぱく質 → 主食
野菜・きのこ・海藻を先に、次に肉・魚・大豆・卵、最後にごはん・パン・麺。食後の血糖上昇がゆるやかになります。 - よく噛んで、食事に20分以上かける
早食いは血糖の急上昇と食べ過ぎの両方の原因です。 - 夜遅い食事・間食を減らす
夕食は就寝の2〜3時間前までに。間食は「時間と量」を決めて、だらだら食べをやめる。 - 果物は適量を「そのまま」
1日こぶし1個分が目安。ジュースやスムージーにすると血糖が上がりやすくなります。 - お酒は適量+休肝日
ビール中瓶1本、日本酒1合、ワイン2杯程度まで。週2日は休肝日を。甘いカクテルやチューハイは避けましょう。
🚶 運動 ― 「食後に歩く」が即効性No.1
- 【即効性】食後30分〜1時間以内に15〜20分歩く
食後の血糖の「山」を低く抑えます。昼食後に職場のまわりを一周するだけでも効果があります。 - 週150分以上の有酸素運動
早歩き・自転車・水泳など、少し息がはずむ程度の運動を1日30分×5日。10分×3回に分けてもOKです。 - 週2〜3回の筋トレ
スクワットやかかと上げなど、下半身中心に。筋肉はブドウ糖の最大の「受け皿」。筋肉が増えると血糖が下がりやすい体になります。 - 座りっぱなしを減らす
30分に1回は立ち上がる。デスクワークの方はこれだけでも違います。
⚖️ 体重 ― まずは「3〜5%減」でOK
肥満のある方は、理想体重を目指す必要はありません。まず現在の体重の3〜5%減(例:80kgの方なら2.5〜4kg)を目標に。それだけで血糖・血圧・中性脂肪がそろって改善することが多く、内臓脂肪は皮下脂肪より先に落ちてくれます。
😴 睡眠 ― 意外と見落とされる血糖の敵
- 睡眠時間が6時間未満だと、インスリンの効きが悪くなり、食欲を増すホルモンも増えます。
- いびきをかく・日中眠い・夜中にトイレに起きる方は、睡眠時無呼吸症候群が隠れているかもしれません。無呼吸は血糖も血圧も悪化させますが、治療(CPAPなど)で両方が改善することがあります。
🚭 禁煙 ― 予備群の方にとって最も効果の大きい「治療」の一つ
喫煙はインスリンの効きを悪くし、動脈硬化を加速させる「ダブルパンチ」です。血糖が高めと言われた方にとって、禁煙は食事や運動と並ぶ最重要項目。禁煙外来での治療も選択肢になります。
海外の大規模研究では、糖尿病予備群の方が食事・運動の改善を続けることで、糖尿病への進行を半分以上減らせたことが示されています。「予備群」は、引き返せる段階です。
7. これはNG! やってはいけない5つの行動
8. 受診の目安 ― あなたはどれに当てはまりますか?
| 健診の結果 | おすすめの行動 | 受診の目安 |
|---|---|---|
| HbA1c 6.5%以上 または空腹時血糖 126以上 または随時血糖 200以上 |
医療機関を受診し、糖尿病の診断と治療方針を決める | できるだけ早く (1か月以内) |
| HbA1c 6.0〜6.4% または空腹時血糖 110〜125 |
精密検査(血糖の再検査・ブドウ糖負荷試験など)で「予備群」か「糖尿病」かを確認する | 1〜2か月以内 |
| HbA1c 5.6〜5.9% または空腹時血糖 100〜109 |
生活習慣の見直しを開始。高血圧・脂質異常・肥満・家族歴がある方は、まとめて相談を | 次の健診を 待たずに相談OK |
| 数値にかかわらず 5章の症状がある |
すぐに受診 | 今すぐ |
9. ちねん内科クリニックでできること
当院は、循環器内科医が「血管と心臓を守る」という視点で糖尿病・高血圧・脂質異常症を診るクリニックです。健診で血糖やHbA1cの異常を指摘された方には、次のような対応ができます。
- 糖尿病かどうかの確認(血糖値・HbA1cの再検査、必要に応じてブドウ糖負荷試験)
- 心電図・心エコー・ABI(血管年齢)・腹部エコーを院内で実施し、動脈硬化や脂肪肝の程度を同時に評価
- 高血圧・脂質異常症・睡眠時無呼吸症候群(CPAP)もまとめて管理。何か所も通う必要がありません
- 生活習慣の改善だけで様子を見るか、薬を使うかを、数値とご本人の希望に合わせて一緒に決めます
- 「健診結果を見てほしいだけ」というご相談も歓迎です
- 健診の結果表(過去のものもあれば、経過がわかるのでぜひ)
- 健康保険証またはマイナ保険証
- お薬手帳(服用中の薬がある方)
※ 朝食を抜いて午前中にご来院いただくと、空腹時血糖の測定やブドウ糖負荷試験のご相談がスムーズです(水やお茶は飲んで構いません)。
「様子を見る」のではなく、「確かめる」ことから始めましょう。
結果表を持って、お気軽にご相談ください。
埼玉県川口市安行吉岡
診療時間 午前 9:00〜13:00/午後 15:00〜18:00
休診日 金曜・土曜(日曜は半日診療)
- HbA1cは過去1〜2か月の血糖の平均。前日の節制では変わらない、信頼性の高い指標
- 5.6%以上は予備群の入り口、6.5%以上は糖尿病型。ただし診断は血糖値との組み合わせで決まるので、確認のための受診が必要
- 症状がなくても血管は傷んでいく。予備群の段階から心筋梗塞・脳梗塞のリスクは約2倍
- 受診では「糖尿病かどうか」と「血管・臓器への影響」の両方を調べる
- 生活習慣は甘い飲み物をやめる → 食後に歩く → 主食を2割減らすの順で始める
- 健診で指摘された「今」が、いちばん軽く対処できるタイミング
Dr.
高血圧・糖尿病・脂質異常症などの生活習慣病と、睡眠時無呼吸症候群の診療を専門に、「10年後の心臓と腎臓を守る」診療を行っています。
参考文献
・日本糖尿病学会 編『糖尿病治療ガイド2024-2025』『糖尿病診療ガイドライン2024』
・厚生労働省『標準的な健診・保健指導プログラム(令和6年度版)』
・厚生労働省『令和6年 国民健康・栄養調査結果の概要』
・Tominaga M, et al. Diabetes Care. 1999;22:920-924.(舟形町研究)
・Norhammar A, et al. Lancet. 2002;359:2140-2144.(GAMI研究)
・Knowler WC, et al. N Engl J Med. 2002;346:393-403.(Diabetes Prevention Program)