2026年10月31日

「健診で血圧が高いと言われたけれど、頭も痛くないし、健診のときだけ緊張していただけでは?」
そう考えて、結果表をそのまましまってしまう方がとても多いのが血圧です。しかし日本の高血圧の人は約4,300万人(およそ3人に1人)。そのうち約45%は治療を受けておらず、血圧が目標まで下がっている人は全体の約27%にすぎません(日本高血圧学会)。
高血圧は脳卒中・心筋梗塞・心不全・腎不全の最大の原因であり、日本では年間10万人以上が、高血圧が原因の病気で亡くなっていると推計されています。しかも2025年8月に高血圧のガイドラインが6年ぶりに改訂され、「これくらいなら大丈夫」のラインは、以前より低くなりました。
この記事では、初めて健診で血圧の異常を指摘された方に向けて、循環器内科医の立場から「数値の見方」「家庭血圧の正しい測り方」「受けるべき検査」「すぐ受診すべき症状」「今日からできる生活習慣の見直し」「受診の目安」をお伝えします。
- 健診の血圧の数値をどう読めばよいか(2025年の新ガイドライン対応)
- 「健診のときだけ高い」は本当か ― 家庭血圧の正しい測り方
- 症状がなくても放置してはいけない理由
- 医療機関で受けるべき検査
- 数値にかかわらずすぐ受診すべき症状
- 減塩など、今日からできる生活習慣のポイント
- 受診の目安と、当院でできること
1. 健診の血圧の数値はどう読む?
血圧は「上(収縮期血圧)/下(拡張期血圧)」の2つの数値で表されます。日本高血圧学会の分類では、上か下のどちらか一方でも基準を超えていれば、高い方の区分で判定します。
| 分類 | 上(収縮期) | 下(拡張期) | 意味と、とるべき行動 |
|---|---|---|---|
| 正常血圧 | 120未満 | かつ 80未満 | 理想的な血圧。現状維持を。 |
| 正常高値血圧 | 120〜129 | かつ 80未満 | このまま上がらないよう、生活習慣に注意。 |
| 高値血圧 | 130〜139 | または 80〜89 | 高血圧の入り口。特定健診では保健指導判定値(130/85以上)。生活習慣の改善を始めましょう。糖尿病・腎臓病・心臓病がある方は、この段階から治療の対象になることがあります。 |
| Ⅰ度高血圧 | 140〜159 | または 90〜99 | 高血圧。特定健診では受診勧奨判定値。家庭血圧を測りながら、医療機関で評価を受けましょう。 |
| Ⅱ度高血圧 | 160〜179 | または 100〜109 | 早めに受診を。生活習慣の改善だけでは下がりきらないことが多く、薬による治療を検討する段階です。 |
| Ⅲ度高血圧 | 180以上 | または 110以上 | すぐに受診を。症状がなくても数日以内に。症状があれば救急受診(5章参照)。 |
※ 単位はmmHg。健診の判定区分(A〜Dなど)は健診機関によって表記が異なりますが、基準となる数値はこの表と同じです。
2025年8月に改訂された日本高血圧学会の『高血圧管理・治療ガイドライン2025』では、血圧の目標が年齢を問わず「診察室で130/80未満、家庭で125/75未満」に統一されました。以前は75歳以上の方などは140/90未満でよいとされていましたが、高値血圧(130〜139/80〜89)の段階でも脳卒中や心筋梗塞が増えることが分かってきたためです。「140/90を超えていなければセーフ」ではなく、「130/80以上はもう少し下げたいゾーン」と考えてください。
2. 「健診のときだけ高い」は本当? ― まず家庭血圧を測りましょう
健診や診察室で測ると緊張して高くなる「白衣高血圧」は、確かにあります。しかし逆に、健診では正常なのに家では高い「仮面高血圧」も同じくらい多く、こちらの方が危険だと分かっています。どちらなのかは、家で測ってみなければ分かりません。
現在のガイドラインでは、診察室の血圧よりも家庭血圧の方が、将来の脳卒中や心筋梗塞をより正確に予測するとされ、診断も治療の判断も家庭血圧を優先して行います。健診で指摘されたら、まず1〜2週間、朝と晩の血圧を記録してみてください。その記録が、受診したときに最も役に立つ情報になります。
Dr.
「健診のときだけ高い」とおっしゃる方に家庭血圧を測っていただくと、家でもしっかり高いということは本当によくあります。また白衣高血圧であっても、数年後には本当の高血圧に移行しやすいことが分かっています。「緊張したから」で片づけず、まず家で測ってみる。これが最初の一歩です。
3. なぜ症状がなくても放置してはいけないのか
3-1. 高血圧の症状は「ない」のがふつうです
「頭痛や肩こりがないから血圧は大丈夫」と思われがちですが、頭痛・肩こり・めまいは、ほとんどの場合、血圧とは関係ありません。血圧が160や170あっても、何も感じない人が大多数です。症状がないまま血管が傷み続け、ある日突然、脳卒中や心筋梗塞として現れる。高血圧が「サイレントキラー(静かな殺し屋)」と呼ばれるのはこのためです。
3-2. 高い圧力が、全身の血管を傷めていきます
血圧が高い状態が続くと、血管の壁は常に強い圧力にさらされ、硬く・厚く・もろくなっていきます(動脈硬化)。影響は全身に及びます。
脳出血・脳梗塞、血管性認知症。脳卒中の最大の原因は高血圧です。
心臓の壁が厚くなり(心肥大)、心不全・心房細動・心筋梗塞の原因に。
腎臓の細い血管が傷み(腎硬化症)、進行すると人工透析に。
眼底出血による視力低下、大動脈瘤・大動脈解離。
世界約100万人のデータをまとめた研究では、血圧が上20/下10mmHg高くなるごとに、脳卒中や心臓病で亡くなるリスクが約2倍になることが示されています。120/80の人と140/90の人では、すでに2倍の差があるということです。
3-3. 逆に言えば、下げれば確実にリスクが減ります
高血圧は、治療の効果がもっともはっきり証明されている病気の一つです。多くの臨床試験をまとめた解析では、上の血圧を10mmHg下げるだけで、脳卒中が約3割、心不全が約3割、心筋梗塞が約2割減ると報告されています。放置するともったいない病気、とも言えます。
Dr.
循環器内科医として、脳梗塞や心不全で入院された方から「血圧が高いのは健診で言われて知っていたけれど、何ともなかったので…」という言葉を何度も聞いてきました。血圧は「下げれば守れる」数少ない危険因子です。健診で指摘された今が、いちばん軽く対処できるタイミングです。
4. 受診したら、何を検査するの?
医療機関での検査の目的は3つあります。①本当に高血圧かを正しく評価する、②血圧を上げている「原因の病気」が隠れていないか調べる、③すでに心臓・腎臓・血管に影響が出ていないか調べることです。
① 血圧を正しく評価する
| 検査 | 何がわかるか |
|---|---|
| 家庭血圧の記録 | もっとも重要な情報です。白衣高血圧か、仮面高血圧か、本当の高血圧かを判断します。 |
| 診察室での再測定 | 安静後に複数回測定。左右の腕の差も確認します(大きな差は血管の病気のサイン)。 |
| 24時間血圧測定(ABPM) | 必要に応じて。小型の血圧計を1日装着し、夜間や早朝の血圧の変動を調べます。 |
② 原因の病気・臓器への影響・併せ持つ病気を調べる
| 検査 | 何がわかるか |
|---|---|
| 血液検査 (腎機能・電解質・血糖・脂質・尿酸) |
腎臓への影響と、一緒に治療すべき糖尿病・脂質異常症を確認します。カリウムが低い場合は「原発性アルドステロン症」(ホルモンの異常で血圧が上がる病気。高血圧の5〜10%を占め、治せる可能性があります)を疑い、ホルモン検査を追加します。 |
| 尿検査 (尿蛋白・尿アルブミン・尿潜血) |
腎臓のダメージを早期に発見します。尿アルブミンは、もっとも早く出るサインです。 |
| 心電図 | 心臓の壁が厚くなっていないか(左室肥大)、不整脈(心房細動)がないかを確認します。 |
| 心エコー(心臓超音波) | 心臓の壁の厚さ・ポンプ機能・弁の状態を直接見ます。高血圧が心臓にどれだけ負担をかけてきたかが分かる、循環器内科ならではの検査です。 |
| ABI・血圧脈波(血管年齢) | 動脈の硬さと足の血流を数分で測定。動脈硬化の進み具合を「血管年齢」として把握できます。 |
| 眼底検査(眼科) | 目の血管は、体の中で唯一「直接見える」血管。高血圧による血管の変化を確認します。 |
| 睡眠時無呼吸の検査 | いびき・日中の眠気・夜間頻尿がある方に。睡眠時無呼吸は「薬が効きにくい高血圧」のもっとも多い原因で、治療すると血圧が下がることがあります。 |
40歳未満で高血圧を指摘された/急に血圧が上がった/血圧の変動が激しい/カリウムが低い/薬を飲んでも下がりにくい──こうした場合は、ホルモンの病気や腎臓の血管の病気、睡眠時無呼吸などが隠れていることがあります。原因を治せば血圧も治ることがあるため、必ず医療機関で調べてもらいましょう。
5. こんな症状があれば、迷わず救急受診を
血圧が180/120mmHg以上あり、次のような症状を伴う場合は「高血圧緊急症」の可能性があります。様子を見ずに、救急車(119番)を呼んでください。
- 今まで経験したことのない激しい頭痛
- 胸の痛み・締めつけ感、背中に突き抜けるような痛み
- 息苦しさ、横になると苦しい
- ろれつが回らない、片側の手足のしびれ・力が入らない
- 物が二重に見える、急に見えにくくなった
- 意識がもうろうとする、けいれん
症状がなくても、家庭で測って180/110以上が続く場合は、数日以内に医療機関を受診してください。「様子を見る」段階ではありません。
6. 今日から見直したい生活習慣 ― 優先順位つき
血圧は、生活習慣の影響がとてもはっきり出る数値です。効果が大きい順に並べました。すべて行うと、上の血圧が10mmHg以上下がることも珍しくなく、これは降圧薬1種類分に相当します。
🧂 減塩 ― 1日6g未満が目標(最優先)
日本人の食塩摂取量は平均で1日約10g。目標の6g未満まで減らすと、上の血圧が5mmHg前後下がることが期待できます。「薄味にする」より、塩分の多いものを減らす方が続けやすく効果的です。
- 【最優先】麺類のスープは残す
ラーメン・うどん1杯で塩分5〜7g。スープを残すだけで半分近く減らせます。 - 味噌汁は1日1杯まで、具だくさんに
汁の量が減るぶん塩分も減り、野菜のカリウムも摂れます。 - 漬物・干物・練り物・ハム・ソーセージ・明太子を減らす
「ごはんのおとも」は塩分の塊です。 - 醤油・ソースは「かける」から「つける」へ
減塩醤油・減塩味噌に替えるだけでも約2割減。 - だし・酸味・香辛料・香味野菜で味を補う
かつおだし、酢、レモン、こしょう、しょうが、ねぎ、大葉など。 - 栄養成分表示の「食塩相当量」を見る習慣を
1食あたり2g以内が目安。コンビニ弁当や外食は、表示を見るだけで選び方が変わります。
🥬 野菜・果物を増やす(カリウムで塩分を排出)
野菜・果物・海藻・豆に多いカリウムは、余分なナトリウム(塩分)を尿へ出す働きがあります。野菜は1日350g(両手いっぱい×2〜3回)、果物は適量を。ただし腎臓の機能が低下している方は、カリウムの摂りすぎが危険なことがありますので、医師にご相談ください。
⚖️ 減量 ― 1kg減らすと約1mmHg下がる
肥満のある方は、体重1kgの減量で血圧が約1mmHg下がるとされています。理想体重を目指す必要はなく、まずは現在の体重の3〜5%減(80kgなら2.5〜4kg)を目標に。
🚶 運動 ― 少し息がはずむ程度を1日30分
- 早歩き・自転車・水泳などを1日30分(または週180分)
血圧が3〜4mmHg下がります。10分×3回に分けても構いません。 - 息を止めて力む運動(重いバーベルなど)は注意
瞬間的に血圧が急上昇します。血圧が高い間は、軽めの筋トレを呼吸を止めずに行いましょう。
🍶 お酒は「適量」に ― 飲み過ぎは確実に血圧を上げます
目安は1日に日本酒1合、ビール中瓶1本、ワイン2杯程度まで(女性はその半分)。それ以上飲んでいる方が適量に減らすと、血圧は約3mmHg下がります。週2日の休肝日も効果的です。
😴 睡眠・いびき ― 「夜の血圧」を上げる見えない原因
- 睡眠不足や強いストレスは、交感神経を通じて血圧を上げます。
- いびきをかく・日中眠い・夜中にトイレに起きる方は、睡眠時無呼吸症候群が隠れているかもしれません。無呼吸の治療(CPAPなど)で血圧が下がる方は少なくありません。
🚭 禁煙 / 🧣 寒さ対策
- タバコは1本ごとに血圧を上げ、動脈硬化を加速させます。高血圧の方にとって禁煙は、減塩と並ぶ最重要項目です。
- 冬は血圧が5〜10mmHg上がります。脱衣所・トイレを暖める、湯温は41℃以下で10分以内、朝の外出時は首元を温める──「ヒートショック」を防ぐ基本です。
7. これはNG! やってはいけない5つの行動
8. 受診の目安 ― あなたはどれに当てはまりますか?
| 健診の結果(mmHg) | おすすめの行動 | 受診の目安 |
|---|---|---|
| 180/110以上 | すぐに医療機関へ。5章の症状があれば救急車を | 数日以内 (症状があれば今すぐ) |
| 160〜179/100〜109 | 家庭血圧の記録を始めつつ、早めに受診。薬による治療を検討する段階 | 2週間〜1か月以内 |
| 140〜159/90〜99 | 家庭血圧を1〜2週間測って受診。糖尿病・腎臓病・心臓病がある方は早めに | 1〜2か月以内 |
| 130〜139/80〜89 | 生活習慣の見直し+家庭血圧の習慣化。血糖・脂質・肥満・家族歴などのリスクがある方は相談を | 次の健診を 待たずに相談OK |
| 健診の結果にかかわらず 家庭血圧が135/85以上 |
家庭血圧で高血圧の基準を超えています。記録を持って受診を | 1か月以内 |
9. ちねん内科クリニックでできること
当院は、循環器内科医が「心臓と血管を守る」という視点で高血圧・糖尿病・脂質異常症を診るクリニックです。健診で血圧を指摘された方には、次のような対応ができます。
- 家庭血圧の記録をもとに、白衣高血圧・仮面高血圧を含めて正しく評価します(測り方の指導も行います)
- 血液・尿検査、心電図、心エコー、ABI(血管年齢)を院内で実施し、心臓・腎臓・血管への影響を同日に確認
- 原発性アルドステロン症など「原因のある高血圧」のスクリーニング(ホルモン検査)
- 睡眠時無呼吸症候群の検査・CPAP治療にも対応。いびきのある方はあわせてご相談ください
- 糖尿病・脂質異常症もまとめて管理。何か所も通う必要がありません
- 生活習慣の改善で様子を見るか、薬を使うかを、数値とご本人の希望に合わせて一緒に決めます
- 健診の結果表(過去のものもあれば、血圧の推移がわかるのでぜひ)
- 家庭血圧の記録(手帳・アプリ・血圧計のメモリーなど、形式は問いません)
- 健康保険証またはマイナ保険証
- お薬手帳(服用中の薬・サプリがある方。痛み止めや漢方薬で血圧が上がることもあります)
※ 受診前に1〜2週間、朝晩の家庭血圧を記録して持参いただけると、初回の診察で診断がぐっと正確になります。まだ測っていない方も、そのままお越しいただいて大丈夫です。
「健診のときだけ」かどうかは、家で測ればわかります。
記録と結果表を持って、お気軽にご相談ください。
埼玉県川口市安行吉岡
診療時間 午前 9:00〜13:00/午後 15:00〜18:00
休診日 金曜・土曜(日曜は半日診療)
- 140/90以上は高血圧、130/80以上は「下げたいゾーン」。2025年の新ガイドラインで目標は全年齢130/80未満に
- 「健診のときだけ高い」かどうかは家庭血圧を測ればわかる。上腕式で朝晩2回ずつ、1〜2週間。135/85以上なら高血圧
- 高血圧に症状はない。しかし血圧が20/10高いごとに脳・心臓の病気で亡くなるリスクは約2倍
- 受診では、原因のある高血圧がないか、心臓・腎臓・血管への影響がないかを調べる
- 生活習慣は減塩(麺のスープを残す)→ 減量 → 運動 → 節酒の順。合わせると薬1種類分の効果
- 180/110以上はすぐ受診。症状を伴う180/120以上は救急車を
Dr.
高血圧・糖尿病・脂質異常症などの生活習慣病と、睡眠時無呼吸症候群の診療を専門に、「10年後の心臓と腎臓を守る」診療を行っています。
参考文献
・日本高血圧学会『高血圧管理・治療ガイドライン2025』
・厚生労働省『標準的な健診・保健指導プログラム(令和6年度版)』
・Lewington S, et al. Lancet. 2002;360:1903-1913.(血圧と心血管死亡リスクに関する100万人のメタ解析)
・Ettehad D, et al. Lancet. 2016;387:957-967.(降圧治療の効果に関するメタ解析)