2026年10月31日

「健診でLDLコレステロールが高いと言われたけれど、太ってもいないし、食事にも気をつけているのに…」
コレステロールは、健診で指摘される異常の中でもっとも多い項目の一つです。そして「体質だから」「痩せているから」「症状がないから」と、いちばん放置されやすい項目でもあります。
しかしLDL(悪玉)コレステロールは、心筋梗塞・脳梗塞のもっとも確実な原因の一つ。しかも300人に1人は「家族性高コレステロール血症」という、放置すると40〜50代で心筋梗塞を起こしうる遺伝性の病気で、心筋梗塞を起こした人の約1割がこの病気だったと報告されています。
この記事では、初めて健診でLDLコレステロールの異常を指摘された方に向けて、循環器内科医の立場から「数値の見方」「放置してはいけない理由」「受けるべき検査」「食事で下がる人・下がらない人の違い」「受診の目安」をお伝えします。
- LDLコレステロールとは何か、なぜ「悪玉」と呼ばれるのか
- 健診の数値の見方と、「140以上=すぐ薬」ではない理由
- 症状がなくても放置してはいけない理由と、家族性高コレステロール血症のサイン
- 医療機関で受けるべき検査
- 早めに受診すべき症状
- 今日から見直せる食事・運動のポイントと、その限界
- 受診の目安と、当院でできること
1. LDLコレステロールとは? なぜ「悪玉」なのか
コレステロールそのものは、細胞の膜やホルモンの材料になる、体に欠かせない物質です。血液の中では「リポ蛋白」という乗り物に乗って運ばれ、LDLは肝臓から全身へコレステロールを「配達」する役、HDL(善玉)は余ったコレステロールを「回収」して肝臓へ戻す役を担っています。
問題は、LDLが多すぎるときです。余ったLDLは血管の壁の中に入り込んで酸化され、「プラーク」というおかゆ状のこぶを作ります(動脈硬化)。このプラークがある日突然破れて血の塊ができ、血管を詰まらせるのが心筋梗塞・脳梗塞です。世界中の研究で、LDLは「低ければ低いほど、動脈硬化の病気が少ない」ことが確かめられています。
血液中のコレステロールのうち、食事に由来するのは2〜3割ほどで、残りの7〜8割は肝臓で作られています。作る量や処理する力は体質(遺伝)で大きく決まるため、「食事に気をつけているのに高い」「痩せているのに高い」は珍しいことではありません。ご自身を責める必要はありませんし、だからこそ「体質なら仕方ない」と放置するのではなく、体質に合った対策が必要になります。
女性ホルモン(エストロゲン)にはLDLを下げる働きがあるため、閉経を境にLDLが20〜30mg/dL上がることがよくあります。「50歳前後で初めて健診で指摘された」という女性はとても多く、体重や食事が変わっていなくても起こる自然な変化です。
2. 健診の数値はどう読む? LDL・HDL・中性脂肪の判定基準
■ LDLコレステロール(mg/dL)の見方
| LDL | 判定 | 意味と、とるべき行動 |
|---|---|---|
| 119以下 | 基準範囲内 | 現状維持。年1回の健診を続けましょう。 |
| 120〜139 | 境界域 (保健指導判定値) |
生活習慣の見直しを。糖尿病・高血圧・喫煙・腎臓病・家族歴がある方は、この段階でも治療対象になることがあります。 |
| 140〜179 | 高LDLコレステロール血症 (受診勧奨判定値) |
脂質異常症の診断基準に該当。医療機関で「あなた自身のリスク」を計算してもらい、治療方針を決めましょう。 |
| 180以上 | 受診勧奨 (要注意) |
家族性高コレステロール血症の可能性があります。体質と決めつけず、必ず受診を(3章参照)。 |
■ 一緒に見てほしい、その他の脂質の数値
| 項目 | 異常の基準 | 意味 |
|---|---|---|
| HDL(善玉) | 40未満 | 低いと動脈硬化が進みやすい。運動不足・喫煙・肥満で下がります。 |
| 中性脂肪 | 150以上(空腹時) 175以上(食後) |
糖質・お酒・肥満の影響が大きい数値。食後は上がるので、採血の条件もあわせて確認を。 |
| non-HDLコレステロール | 170以上 (150〜169は境界域) |
総コレステロール−HDL。LDL以外の「悪玉」も含めた指標で、中性脂肪が高い方では特に重要です。 |
脂質異常症の治療方針は、LDLの値だけでは決まりません。年齢・性別・血圧・糖尿病の有無・喫煙・HDL・家族歴・心筋梗塞や脳梗塞の既往などから、「今後10年間で動脈硬化の病気を起こす確率」を計算し、リスクに応じた目標値を決めます(日本動脈硬化学会の「久山町スコア」)。
たとえば同じLDL 150でも、40歳・非喫煙・血圧正常の女性なら目標は160未満で生活習慣の改善が中心ですが、60歳・糖尿病あり・喫煙者の男性なら目標は120未満(場合により100未満)で、早めに薬を使う方が合理的です。健診の数値だけでは判断できないからこそ、受診して「あなたのリスク」を計算してもらうことが大切です。
3. なぜ症状がなくても放置してはいけないのか
3-1. プラークは何十年もかけて育ち、破れる瞬間まで無症状です
LDLが高くても、体の不調はまったくありません。血管の壁の中でプラークが静かに育ち、血管の半分以上が狭くなっても自覚症状がないことがほとんどです。そして心筋梗塞は、それまで狭心症の症状がなかった人に突然起こることも多いのです。
3-2. ダメージは「高さ × 年数」の掛け算で蓄積します
LDLによる血管のダメージは、「どれだけ高いか」×「どれだけ長い期間か」の積み重ねで決まると考えられています。つまり、同じLDL 160でも、30代から放置した人と60代で初めて上がった人とでは、血管の傷み方がまったく違います。若いうちに指摘された方ほど、早く下げ始めるメリットが大きいということです。
3-3. 300人に1人の「家族性高コレステロール血症(FH)」を見逃さない
家族性高コレステロール血症(FH)は、生まれつきLDLを処理する力が弱い遺伝性の病気で、日本人の約300人に1人と、遺伝性の病気としてはもっとも多いものです。子どものころからLDLが高いため動脈硬化が早く進み、治療しなければ心筋梗塞のリスクは一般の人の10倍以上、男性では30〜50代で発症することもあります。心筋梗塞を起こした人の約1割がFHだったという報告もあります。
- 治療前のLDLコレステロールが180mg/dL以上
- アキレス腱が太い(腱にコレステロールがたまって厚くなります)、または手の甲・ひじ・ひざ・まぶたに黄色いしこり(黄色腫)がある
- 親・兄弟姉妹・子どもにFHの人、または若くして心筋梗塞・狭心症を起こした人(男性55歳未満・女性65歳未満)がいる
FHは診断さえつけば、薬でしっかりコントロールでき、将来の心筋梗塞を防げる病気です。ご本人だけでなく、ご家族(お子さんを含む)の検査につなげることも大切です。
Dr.
循環器の現場では、40代で心筋梗塞を起こして運ばれてきた方のLDLを調べて、そこで初めてFHと分かる──ということが珍しくありません。その多くは、何年も前の健診で「LDLが高い」と言われています。健診でLDL 180以上と言われたら、「体質だから」で済ませず、必ず一度受診してください。
4. 受診したら、何を検査するの?
医療機関での検査の目的は4つです。①脂質を正しく評価する、②LDLを上げている「原因の病気」がないか調べる、③FHかどうかを見極める、④動脈硬化がどこまで進んでいるか・あなたのリスクはどれくらいかを調べることです。
| 検査 | 何がわかるか |
|---|---|
| 空腹時の脂質の再検査 (LDL・HDL・中性脂肪・non-HDL) |
健診とは別の日に、空腹で正確に測り直します。中性脂肪は食事の影響が大きいため、10時間以上の絶食がおすすめです。 |
| 原因の病気を調べる血液検査 (甲状腺・肝臓・腎臓・血糖) |
甲状腺機能低下症(LDLが上がる代表的な原因で、治療すれば下がります)、ネフローゼなどの腎臓病、糖尿病、脂肪肝などを確認します。服用中の薬(ステロイドなど)が原因のこともあります。 |
| FHの評価 (アキレス腱の診察・家族歴の聞き取り) |
アキレス腱の厚さを診察や超音波・レントゲンで確認し、ご家族の病歴をうかがいます。疑わしい場合は遺伝子検査(保険適用)も可能です。 |
| リスクの計算(久山町スコア) | 年齢・性別・血圧・血糖・喫煙・HDL・LDLから「10年間で動脈硬化の病気を起こす確率」を計算し、あなたのLDLの目標値を決めます。 |
| 頸動脈エコー | 首の血管を超音波で見て、プラークがすでにできていないか、血管の壁の厚さ(動脈硬化の進み具合)を直接確認します。 |
| ABI・血圧脈波(血管年齢) | 動脈の硬さと足の血流を数分で測定。足の動脈の詰まり(閉塞性動脈硬化症)も見つかります。 |
| 心電図・心エコー | 心臓の血管が狭くなっているサインや、心臓の動きを確認します。胸の症状がある方や高リスクの方では、冠動脈CTなどを病院で追加することもあります。 |
5. こんな症状・サインがあれば、数値にかかわらず早めに受診を
LDLが高いこと自体に症状はありませんが、次のサインはすでに動脈硬化が進んでいる可能性を示します。健診の判定にかかわらず、早めに受診してください。
- 階段や坂道で胸が締めつけられる・圧迫される感じがあり、休むと治る(狭心症のサイン)
- 以前より息切れしやすくなった
- 歩くとふくらはぎが痛くなり、休むとまた歩ける(足の動脈硬化のサイン)
- 一時的に片側の手足の力が抜けた、ろれつが回らなくなった、片目が見えなくなった(数分で治っても要注意)
- まぶたや手の甲・ひじ・ひざに黄色いしこりがある、アキレス腱が太い
- 親・兄弟姉妹に若くして心筋梗塞・脳梗塞を起こした人がいる
【緊急】20分以上続く胸の痛み・圧迫感に、冷や汗・吐き気・息苦しさを伴う場合は心筋梗塞の可能性があります。ためらわず救急車(119番)を呼んでください。
6. 今日から見直したい生活習慣 ― 「LDLに効くこと」を優先
LDLコレステロールに対しては、運動よりも食事の方がはるかに効果的です。そして食事の中でも「何を減らすか」に優先順位があります。
🍖 食事 ― 「卵を減らす」より「脂の種類を変える」
- 【最優先】飽和脂肪酸(動物性の脂)を減らす
肉の脂身・鶏皮・バター・ラード・生クリーム・チーズ・アイスクリーム・菓子パン・スナック菓子。LDLを上げる最大の要因は、コレステロールそのものより「飽和脂肪酸」です。肉は赤身・鶏むね・ささみに、脂は植物油(オリーブ油・菜種油)に替えましょう。 - トランス脂肪酸を避ける
マーガリン・ショートニングを使った菓子パン・クッキー・ドーナツ・揚げ物の衣など。LDLを上げてHDLを下げる、もっとも避けたい脂です。 - 水溶性食物繊維を増やす
大麦(もち麦)・オートミール・海藻・きのこ・豆類・野菜・果物。腸でコレステロールの吸収を抑え、排出を助けます。白米にもち麦を混ぜるだけでも効果があります。 - 魚(特に青魚)を週3回以上、大豆製品を毎日
サバ・イワシ・サンマなどのEPA・DHAは中性脂肪を下げ、豆腐・納豆などの大豆たんぱくはLDLを下げます。 - 卵は「ゼロ」ではなく「1日1個程度」
LDLが高い方は、食事からのコレステロールを1日200mg未満に(卵1個で約200mg)。卵を完全にやめる必要はありませんが、魚卵・レバー・うなぎなどの頻度にも注意を。 - 「日本食」を基本に
魚・大豆・野菜・海藻・きのこ・未精製の穀物を中心とした減塩の和食は、日本動脈硬化学会が推奨する食事パターンです。
食事をしっかり改善しても、LDLの低下はおおむね5〜15%(例:160 → 140前後)です。体質の影響が大きいため、食事だけでは目標に届かない方も多く、それは「努力不足」ではありません。その場合は、薬で下げるのが合理的な選択になります。
🚶 運動・減量 ― LDLより「HDL・中性脂肪・血管全体」に効く
- 週150分以上の有酸素運動(早歩き・自転車・水泳)。LDLへの直接の効果は小さいものの、HDLを上げ、中性脂肪・血圧・血糖を下げ、動脈硬化全体のリスクを下げます。
- 肥満のある方は現体重の3〜5%減。内臓脂肪が減ると中性脂肪が下がり、HDLが上がります。
🚭 禁煙 ― 「高LDL × 喫煙」は最悪の組み合わせ
タバコはHDLを下げ、LDLを酸化させてプラークを作りやすくし、血管を収縮させます。LDLが高い方が喫煙していると、心筋梗塞のリスクは掛け算で増えます。LDLを下げるどの対策よりも、禁煙の方が効果が大きいことも珍しくありません。
🍶 お酒 ― 中性脂肪が高い方は特に注意
お酒はLDLにはあまり影響しませんが、中性脂肪を確実に上げます。中性脂肪も高い方は、適量(日本酒1合・ビール中瓶1本程度まで)と休肝日を。
LDLを下げる薬(スタチンなど)は、30年以上・数十万人規模の研究で効果と安全性が確かめられており、LDLを約40mg/dL下げるごとに、心筋梗塞や脳梗塞などのリスクが約2割減ることが分かっています。「薬を使う=生活習慣の負け」ではなく、体質で作られるコレステロールを、食事では届かない分だけ薬で補正するという考え方です。
筋肉痛や肝機能への影響などの副作用は、定期的な血液検査で確認しながら使えば、多くの方が問題なく続けられます。薬を使うかどうかは、リスクの計算結果とご本人の希望をもとに、一緒に決めていきます。
7. これはNG! やってはいけない5つの行動
8. 受診の目安 ― あなたはどれに当てはまりますか?
| 健診の結果(mg/dL) | おすすめの行動 | 受診の目安 |
|---|---|---|
| LDL 180以上 | 家族性高コレステロール血症の可能性。必ず受診し、ご家族の検査も検討を | 早めに (1か月以内) |
| LDL 140〜179 | 受診してリスクを計算し、動脈硬化の検査と治療方針の相談を | 1〜2か月以内 |
| LDL 120〜139(境界域) | 生活習慣の見直しを開始。糖尿病・高血圧・喫煙・腎臓病・家族歴がある方は相談を | 次の健診を 待たずに相談OK |
| LDLにかかわらず HDL 40未満/中性脂肪 300以上/non-HDL 170以上 |
脂質異常症として評価が必要。受診を | 1〜2か月以内 |
| すでに糖尿病・慢性腎臓病・心筋梗塞/脳梗塞の既往がある | LDLが120以上(既往のある方は100以上)なら治療対象になる可能性。主治医に相談を | 次回の受診時 |
| 数値にかかわらず 5章の症状・サインがある |
すぐに受診 | 今すぐ |
9. ちねん内科クリニックでできること
当院は、循環器内科医が「心臓と血管を守る」という視点で脂質異常症・高血圧・糖尿病を診るクリニックです。健診でLDLコレステロールを指摘された方には、次のような対応ができます。
- 「あなたのリスク」の計算(久山町スコア)と、それに基づくLDLの目標値の設定
- 家族性高コレステロール血症のスクリーニング(アキレス腱の診察・家族歴の確認)、甲状腺など原因となる病気の検索
- 心電図・心エコー・ABI(血管年齢)を院内で実施し、動脈硬化の進み具合を「見える化」。必要に応じて頸動脈エコーや病院での冠動脈CTもご案内します
- 高血圧・糖尿病・睡眠時無呼吸症候群もまとめて管理。何か所も通う必要がありません
- 食事の改善だけで様子を見るか、薬を使うかを、リスクの計算結果とご本人の希望をもとに一緒に決めます
- 「健診結果を見てほしいだけ」「体質かどうか知りたい」というご相談も歓迎です
- 健診の結果表(過去のものもあれば、LDLの推移がわかるのでぜひ)
- 健康保険証またはマイナ保険証
- お薬手帳(服用中の薬・サプリがある方)
- ご家族の病歴のメモ(親・兄弟姉妹の心筋梗塞・狭心症・脳梗塞・高コレステロールの有無と、発症した年齢)
※ 朝食を抜いて午前中にご来院いただくと、空腹時の脂質(特に中性脂肪)を正確に測定できます(水やお茶は飲んで構いません)。
「体質だから」で終わらせず、「あなたのリスク」を一度確かめてみませんか。
結果表を持って、お気軽にご相談ください。
埼玉県川口市安行吉岡
診療時間 午前 9:00〜13:00/午後 15:00〜18:00
休診日 金曜・土曜(日曜は半日診療)
- LDLは「低いほど良い」。140以上は脂質異常症、120〜139でも他のリスクがあれば治療対象になりうる
- 治療方針はLDLの値だけでなく、年齢・血圧・糖尿病・喫煙・家族歴から計算した「あなたのリスク」で決まる
- コレステロールの7〜8割は体内で作られる。痩せていても、食事に気をつけていても高いのは珍しくない
- LDL 180以上は家族性高コレステロール血症の可能性。アキレス腱の肥厚・若年の心筋梗塞の家族歴があれば特に要注意
- 食事は飽和脂肪酸を減らす → 食物繊維・魚・大豆を増やすが優先。効果は5〜15%で、届かなければ薬が合理的
- 胸の圧迫感・歩くと足が痛む・一時的な麻痺などがあれば、数値にかかわらずすぐ受診
Dr.
高血圧・糖尿病・脂質異常症などの生活習慣病と、睡眠時無呼吸症候群の診療を専門に、「10年後の心臓と腎臓を守る」診療を行っています。
参考文献
・日本動脈硬化学会『動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版』
・日本動脈硬化学会『家族性高コレステロール血症診療ガイドライン2022』
・厚生労働省『標準的な健診・保健指導プログラム(令和6年度版)』
・Cholesterol Treatment Trialists’ Collaboration. Lancet. 2010;376:1670-1681.(LDL低下療法の効果に関するメタ解析)
・Ference BA, et al. Eur Heart J. 2017;38:2459-2472.(LDLと動脈硬化の因果関係に関する欧州動脈硬化学会の合意声明)