利尿剤で血圧が下がる? 〜今も昔も変わらぬ第一選択:サイアザイド〜

  • URLをコピーしました!

現在、高血圧に対する薬物療法の第一選択は日本でも世界的にも3種類です。

① 利尿薬 (特にサイアザイド類似利尿薬)
② カルシウム拮抗薬
③ ACE阻害薬/ARB

血圧を下げる薬=血管を拡張する薬 というイメージがあり、利尿薬で血圧が下がることが不思議という方もいます。しかしサイアザイドという利尿薬は最も古くから使われている降圧薬で、「現在においても利尿薬に勝る降圧薬なし」と言われるほど大事な薬です。

今回は、高血圧に対するサイアザイドの効果を詳しく見ていきます。

この記事を読んで分かること

・利尿薬の中でどの薬が最も高血圧に効果があるのか

・サイアザイドの血圧を下げる機序

・サイアザイドの臓器を保護するエビデンス

・サイアザイドを内服するときに気をつけること

目次

そもそも血圧とは何か

血圧とは何かを考えるときに分かりやすいのが風船です。
風船を膨らませて、その風船にかかってる圧力が血圧と考えることができます。

風船にたくさん空気を入れると、風船はパンパンになって圧力が高くなります。
また風船がとても分厚く固ければ、同じ大きさでも膨らませるのにそれだけ圧力が要ります。
つまり、風船の中の空気が多いほど、そして風船自体が硬いほど、圧力は高くなります。

これを血圧に当てはめると、風船の中の空気=血管内の体液量、風船の素材の硬さ=血管の硬さ となります。
つまり血管内の体液量が多いほど、そして血管が硬いほど血圧は高くなります。


このことから分かるように、血圧を下げる薬には大きく分けて2つの機序があります。

① 体液量を減らす薬
② 血管を拡張させる薬

利尿薬は基本的には尿を出すことで体液量を減らして血圧を下げますが、後述するように血管を拡張させる作用も持ち合わせています。

利尿薬の種類

利尿薬には色々な種類がありますが、高血圧に使われるのはサイアザイドという利尿薬です。

サイアザイドの中には、サイアザイド系利尿薬サイアザイド類似利尿薬があります。


違いは化学構造式にサイアザイド骨格というものがあるかないかですが、細かいことは気にする必要はありません。

大事なことは、高血圧の治療ではなるべくサイアザイド類似利尿薬を使った方が良いということです。日本で処方できるサイアザイド類似利尿薬はインダパミド(ナトリックス®︎)だけですので、これ一択ということになります。


サイアザイド利尿薬ではなくサイアザイド類似薬を優先する理由は2つあります。

1つ目は、サイアザイド類似利尿薬の方が血圧が下がるからです。
例えば、下のグラフは日本人で、インダパミド(サイアザイド類似利尿薬)2mgとトリクロルメチアジド(サイアザイド系利尿薬)4mgの降圧効果をみたものです。インダパミドの方が少ない量ですが、それでも明らかに血圧が下がっています。

他にも、海外でよく使われるサイアザイド類似利尿薬のクロルタリドンは、サイアザイド系利尿薬のヒドロクロロチアジドより降圧効果が2−3倍高いと結論づけられており、サイアザイド類似利尿薬の方が降圧効果が高いです。

医学のあゆみ 1982;122:1010-30より引用

2つ目は、心臓病や脳卒中を予防できるエビデンスが豊富だからです。

降圧薬で大事なのは血圧だけではありません。そもそも血圧を低下させるのは、心血管病(心筋梗塞や脳卒中を合わせたもの)を予防したいからです。

どれだけ血圧を下げられるかはとても大事で、下がらなければ意味がありません。しかし、血圧が下がればどんな薬でもいいというわけでもありません。例えば、β遮断薬という薬は以前は第一選択薬でしたが、脳卒中がサイアザイドなどと比較すると多いという理由で第一選択から外されました。降圧薬には心血管病を減らすという実績が必要なのです。

サイアザイド系利尿薬には死亡率や心血管病を減らすエビデンスがありませんが、サイアザイド類似利尿薬には豊富にあります。1例を挙げると、日本でも使用可能なインダパミドにはHYVET試験という大規模試験があります。

80歳以上の高齢者にインダパミド徐放剤1.5mg(±ペリンドプリルという薬)を投与することで、脳卒中が30%減少、脳卒中による死亡が39%減少、全ての死亡21%減少、心不全64%減少させ、高齢者でも血圧をしっかり下げるべきだという認識を固めた非常に有名な試験です1)

HYVET試験
脳卒中(左上) 総死亡(右上) 心血管死亡(左下) 脳卒中死(右下)は、インダパミド群(赤線)でプラセボ群(青)より少ない。
N Engl J Med 2008;358:1887-98より引用

サイアザイド系利尿薬よりサイアザイド類似利尿薬の方が効果が高い

サイアザイドで血圧が下がる機序

サイアザイドは腎臓の遠位尿細管という部分に働きかけ、塩分(NaCl)の再吸収を阻害することで利尿作用を発揮します。

サイアザイドは利尿薬ですので、まず最初に尿を出して体液量を減らすことで血圧を低下させます。しかし、長期的には血管を拡張する作用も出現してきて、この2つの合わせ技で血圧が下がります。

下の図はサイアザイドを投与した人での血圧と体液量の変化です2)

上段は血圧ですが、血圧は最初の48時間でガクンと下がった後も、その後も6週間かけて徐々に低下し続けます。

下段は体液量で、こちらも最初の48時間で大幅に減りますが、その後は徐々に元に戻っていきます(完全には戻りませんが)。

先ほど解説した通り、血圧=体液量×血管の硬さ なので、48時間以降に体液量が増えても血圧が低下しているのは、血管が拡張しているからなのです。

Blood Pressure: 血圧 Plasma Volume: 体液量
Am Heart J. 1978;95(5):611より引用

ここから分かる患者さんにとって大事な情報としては、利尿剤を飲むとおしっこの回数が増えて生活に支障をきたすのではないかと思われるかもしれませんが、最初の数日は尿量が増えても、いつまでも尿量が増え続けるわけではなく元に戻るので心配しなくてもいいということです。

また、夜間頻尿があり夜に起きてしまう人は、利尿剤がおしっこを日中にしっかり出してくれるので、夜の尿が減りゆっくり眠れるようになることもあります。実際、泌尿器科でも夜間頻尿の治療の一つに日中の利尿剤治療があります3)

最初に体液量を減らし、その後に血管を拡張させることで血圧を下げる

サイアザイドの血圧低下効果

サイアザイド類似利尿薬はどの程度血圧を下げるのでしょうか。
イメージ的には血管を直接させる他の方が血圧が下がりそうなイメージがあるかもしれません。しかしサイアザイド類似利尿薬の降圧効果は他の降圧薬と同等かそれ以上 といえます。

ALLHAT試験という最も有名な研究の一つがあります。その研究では、サイアザイド類似利尿薬(クロルタリドン)・ACE阻害薬(リシノプリル)・カルシウム拮抗薬という現在の第一選択の3種類が直接比較されました4)

この試験ではサイアザイド類似利尿薬が最も血圧を低下させ、他の2つの薬より心血管病の発症も少ないという結果でした。これは、サイアザイド類似薬で血圧が最も下がったためではないかと考えられています。

血圧が一番下がったためか、サイアザイド類似薬が一番いい薬だったためかは分かりませんが、どちらにせよこの結果から、アメリカ心臓病学会の高血圧ガイドラインではサイアザイド類似を優先して使うべきと記載されています5)

またメタアナリシスという、多くの論文を統合させて解析する方法で、さまざまな種類の薬が比較したところ、日本で使用可能なサイアザイド類似薬のインダパミドが最も血圧を低下させたという論文もあります6)

サイアザイド類似利尿薬は他の降圧剤と同等かそれ以上の降圧効果

サイアザイドを使うとよい患者

一般的に、若年者はACE阻害薬/ARBとβ遮断薬という降圧薬で血圧が低下しやすく、高齢者はカルシウム拮抗薬とサイアザイドで血圧が下がりやすいという傾向があります。よって、高齢者には良い適応となります。

また、体内から塩分を排出して体液量を減らすのが目的なので、塩分摂取で血圧が上がりやすい人(食塩感受性があるといいます)で効果があると考えられます。中年〜高齢、重症高血圧患者、糖尿病患者などで食塩感受性があると言われており、これらの人は効果が高いと推測されます。また、人種別で言うと黒人は特に塩分と血圧の関連が大きいことで有名ですが、日本人もこの食塩感受性が多いとされています。

もう一つ、サイアザイドは尿からのカルシウムの排泄を減らすので、カルシウムを摂取しているのと同じ効果があります。よって、骨粗鬆症に良い効果があり、前述のALLHAT試験ではサイアザイドを内服している人は骨盤骨折が少なかったことがわかっているので、骨粗鬆症がある高血圧患者さんにもいい適応です。

サイアザイドの使い方

サイアザイドは少ない量で使うのが大事です。
下の図は、354の論文を統合して血圧低下度と副作用をみたものです7)

左:用量と血圧降下 右:用量と副作用発現率
BMJ. 2003 Jun 28;326(7404):1427より引用

左図は血圧の低下度で、横軸の1が通常量、1/2が半量、2が倍量です。半量から通常量あるいば倍量に増やしても血圧はそれぞれ2−3mmHgずつしか上乗せで低下しません。半量で降圧作用の大半は得られていることになります。

右図は副作用の発現頻度です。半量2.0%、通常量9.9%、倍量17.8%と、増やすほど副作用は激増していきます。半量での副作用発現率は他の降圧薬より少ないですが、倍量での発現率は他の降圧薬より多いです。

基本的には副作用がほとんど生じず、降圧効果も十分に得られる半量で使用し、不十分であれば通常量への増量を考慮するのが良いでしょう。ナトリックス®︎であれば半量の1mgから開始し、必要があれば2mgに増量ということになります。
(ただし実際は通常量に増量するより、ACE阻害薬やカルシウム拮抗薬など他の種類の降圧を低量で併用した方が、効果の面からも副作用の面からも有利なことが多いです。)

サイアザイドは通常量の半量で使用するのが最もバランスが良い

サイアザイドの副作用

サイアザイドの副作用で最も多いのは電解質異常や代謝異常です。

電解質異常は血液中のカリウムナトリウムが低下することです。多くの場合は無症状ですが、重篤になれば低カリウム血症は不整脈を起こしたり、低ナトリウム血症は倦怠感や吐き気やふらつき・転倒を起こすことがあります。

代謝異常は、血液中の尿酸値が上がり痛風になったり、血糖値が上昇し糖尿病を発症したり、コレステロール値が上がることがあります。

しかし、先ほども見た通り、これらは低用量で使用する限り頻度は低いです。もしこれらの副作用が起こった場合は薬を中止もしくは減量すれば速やかに改善することがほとんどです。

電解質異常は最初の1−2週間で多く、サイアザイドを開始したり増量した際には、できれば2週間ぐらいを目安に血液検査をしてこれらの異常が出ていないかをみることが勧められます。

ちなみに、最も多い副作用は低カリウム血症ですが、これは高血圧の治療の基盤となる減塩によって頻度が減りますので、普段から塩分を控えることも重要です。

まとめ

いかがだったでしょうか。今回は古くから使われ、未だに最前線で活躍しているサイアザイドについて解説しました。

高血圧と診断されサイアザイドが処方される人もいるかと思いますが、非常に有効な薬ですので、心配せずに継続してください。

本記事のまとめ
  • サイアザイド類似利尿薬は降圧効果が高くエビデンスも豊富な薬
  • 体液量を減らし、その後に血管も拡張させることで血圧を下げる
  • 低用量で最も降圧効果と副作用のバランスが良い

参考文献
1) N Engl J Med 2008;358:1887-98
2) Am Heart J. 1978;95(5):611
3) 夜間頻尿診療ガイドライン第2版
4) JAMA. 2002;288:2981-2997
5) Hypertension. 2018;71:e13–e115
6) Am J Cardiovascular Drugs 2005;5(2):131-140
7) BMJ. 2003 Jun 28;326(7404):1427

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

川口市安行吉岡で内科・循環器内科・糖尿病内科・呼吸器内科の診療を行っております。

目次