有酸素運動は医学的にも健康に良い? 〜病気を減らす数々のエビデンス〜

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有酸素運動とは、ウォーキングやジョギングなどのように、ある程度の時間をかけて行う運動のことです。

この有酸素運動が体にいいというのは皆さんよく聞くことだと思います。例えば、痩せる、体力がつくなど。

しかし、医学的にはその効果は証明されているのでしょうか。今回は、実際に有酸素運動を行うことで病気を減らすことができるのかどうかをデータを基に説明していきます。

この記事を読んでわかること

・1日の活動量と病気の関係

・有酸素運動の健康に与える様々な効果

・どのくらいの強度運動をどのくらいの時間行えばいいのか

目次

普段の生活の活動量と病気の関係

まず、有酸素運動の効果について話す前に、普段の生活における活動量が健康に与える影響について説明します。

現在、先進国では体を動かす機会が少ないことが健康上の大きな問題となっています。例えば、座っている時間が長い生活は様々な病気と関連し、死亡率・心血管病による死亡・癌の発生・糖尿病が増えることがわかっています1)特に1日8時間以上座っている人は予後が悪いと言われます。さらには、中断されずに連続して座っている時間が長いほど悪影響が強くなります。

下図は、座位時間と死亡率をみた結果です。座位時間が長い人ほど予後が悪いことが示されています2)

横軸が1日の座位時間、縦軸が死亡のリスク(7.5時間の時のリスクを1.0として何倍か)
BMJ 2019;366:l4570より引用。

後述するように有酸素運動をすることも大事なのですが、時間がなくて運動ができない人でも座位時間を減らすこと、日常生活で少しでも歩く量を増やすことが非常に大事です。

上図では座位時間が長いと死亡率が高いという図ですが、歩いている歩数が多いほど、心臓病や癌や死亡率が低下することもわかっています3)下の図を見てください。

この研究はアメリカで行われた研究で、40歳以上の人で歩数と死亡率の関係を見ています。1万歩あたりまでは、歩けば歩く人ほど死亡率が下がっているのがわかります。ちなみに、心血管病と癌の発症率に関しても同様の結果でした。

1日の歩行数(横軸)と1年での1000人ごとの死亡率(縦軸)
JAMA. 2020;323(12):1151-1160より引用

上の図を見てこう考える人がいるかもしれません。「たくさん歩ける人はそもそも健康な人なんだから長生きするのは当たり前でしょう」。この考え方は正しく、このようなバイアス(偏り)を交絡因子と言います。

しかし、この研究はプロペンシティマッチングと言って、年齢・性別・体重・心血管病リスク・癌リスクetc・・・を揃えた状態にして比較しているので「歩けるから元気」というバイアスを減らしています(もちろん完全には排除できませんが)。ですので、やはりたくさん歩くほど健康に良い、というのは間違っていないでしょう。

有酸素運動と病気の関係

では有酸素運動は医学的に効果があるのでしょうか。
以下に運動で証明されている医学的な効果を列挙してみます。

全死亡率が減る
心血管病とそれに伴う死亡が減る
高血圧のリスクが減る
糖尿病のリスクが減る
高コレステロール血症のリスクが減る
膀胱癌・乳癌・大腸癌・子宮癌・食道癌・腎臓癌・肺癌・胃癌のリスクが減る
認知機能を高める
認知症のリスクを減らす
QOL(人生の質)を高める
不安を減らす
うつ病のリスクを減らす
睡眠を改善する
肥満の改善
骨粗鬆症の改善
身体機能の改善
高齢者での転倒のリスクが減る
妊婦では過度の体重増加・妊娠糖尿病・産後うつ病のリスクが減る

どうでしょうか。書き上げるだけで大変なほど、多くの健康上の利点が医学的に証明されているのです。
もしもこれだけの効果をいっぺんに得られる薬が作られたとしたら、あらゆる人が飲みたがるのではないでしょうか。ある意味、有酸素運動は「万能薬」のようなものなのです。

有酸素運動はどのくらいの運動をどのくらいの時間すればいい?

ではどの程度の運動を、何分ぐらいすればいいのでしょうか?

まずは強度です。のんびり歩くだけでももちろん効果はありますが、しっかりした効果を出すには中等度以上の強度が望ましいとされます。

中等度の強度は人によって異なりますが、最大心拍数(220-年齢)×60%程度で、「少しきつい」と感じる程度の運動で、息が切れるぐらいの早歩きが目安です。ランニングなどは高強度に分類されます。


次に運動時間についてです。有酸素運動は、量が多ければ多いほど効果も大きくなっていきますが、1日100分以上の中強度の運動では効果はプラトーになります。

下図は、中強度もしくは高強度の運動を1日何分したらどのくらい死亡率が下がるかをメタアナリシスという複数の論文を統合して調べた研究です。1日25分ぐらいの運動時間で最も死亡率が低いという結果です。ただしこれは高強度の運動も含まれている時間です。

現在多くのガイドラインで推奨されている運動量は、週150分以上の中強度の運動を行い、2日以上連続で運動を休まないことです。つまりオススメの運動と時間は、息が切れるぐらいの早足のウォーキングを30分×週5日以上を行うことです。
もちろんジョギングなどが可能な人は強度が高い運動をした方が効果も高いです。

BMJ 2019;366:l4570より引用。


ただし、量や強度が高い方がいいとは言っても、1回75分の運動を週1−2回だけ行う人(weekend warriors)でも、座位中心の人たちと比べて死亡率・心血管病による死亡・癌による死亡が少ないので、目標に届かないからといってやめてしまわず、少しであっても行うことが大事です。

ちなみに、座位時間が長い人ほど予後が悪いと説明しましたが、週300分以上の中強度から高強度の運動をしている人は座位時間の悪影響は認めなくなったと報告されており4)、仕事で座っている時間がどうしても長くなってしまう人は特に有酸素運動をすることが大事です。

まとめ

ここまで見てきたように、有酸素運動には健康にあらゆる側面から大きな効果をもたらします。

ただし、続かなければ意味がないですので、継続できるように無理のない範囲で習慣化することが大事です。

有酸素運動が難しい時でも、座っている時間を減らして歩く時間を増やすだけでも絶大な効果がありますので、是非少しでも体を動かすようにしてみてください。

この記事のまとめ

・座っている時間が長いことは健康に悪影響を与える

・歩く歩数が多いほど健康に良い

・有酸素運動はあらゆる側面から健康に良い影響を与える

・1日30分の早足のウォーキングを目指す

参考文献
1) Ann Intern Med 2015;162(2):123
2) BMJ 2019;366:l4570
3) JAMA 2020;323(12):1151-1160
4) J Am Coll Cardiol 2019;73(16):2062
その他:UpToDate®︎

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この記事を書いた人

川口市安行吉岡で内科・循環器内科・糖尿病内科・呼吸器内科の診療を行っております。

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