塩分の摂りすぎにご用心! 〜減塩のコツと絶大な効果〜

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日本人には脳卒中が多く、また心筋梗塞などの心臓病も増えていますが、その原因の大きな部分を占めるのは高血圧です。

高血圧と塩分摂取量は密接に関係していることがわかっており、高血圧の方は医師から減塩が指導されると思います。


しかし単に「塩分を減らしてください」と言われても実践は難しく、どうすればいいのかわからない人が多いです。

今回は、塩分摂取の具体的な目標やその効果、減塩のコツなどについて解説していきます。

目次

塩分と血圧の関係

2019年の報告では、日本人の1日塩分摂取量は、男性10.9g、女性9.3gとなっており、世界的にみると高い水準です。
下の図は世界の塩分摂取量を色分けしたものですが1)、これを見ても日本人は塩分摂取量が多いことがわかります。

東北地方では1950年代には1日の塩分量が26gもとっていた時期があり、世界的にも有名です。一方で、アマゾンに住むヤノマミ族は1日の塩分摂取量はわずか0.5gとされており、地域によって大きな差があることが知られています。

BMJ Open 2013;3:e003733より引用

塩分摂取量と血圧には密接な関係があることがわかっています。
下図は中国から報告された、世界の18の国の102,216人の塩分摂取量と血圧の関係を見たグラフです2)
横軸が1日の塩分摂取量(正確にはナトリウム排泄量)、縦軸が収縮期血圧で、塩分摂取量が多いほど血圧が上昇しているのが見てわかります。

横軸:1日のナトリウム排泄量 (×2.54で塩分量に換算可能) 縦軸:収縮期血圧
N Engl J Med. 2014; 371: 601-11より引用

冠動脈疾患(狭心症・心筋梗塞)の47%、脳卒中の54%は高血圧によると考えられています3)。心筋梗塞・狭心症・脳卒中・心不全・末期腎不全など高血圧に関連した疾患は世界で最も死亡数が多く、日本でも癌に匹敵するほどの死者数であり、塩分を摂りすぎることは社会的にも問題なのです。

減塩すると血圧は下がるのか?

塩分量が多いと血圧が上がるのはわかりましたが、塩分を控える(減塩)すると本当に血圧が下がるのでしょうか。
健康食として日本のガイドラインでも推奨されており、当ブログでも取り上げたことのあるDASH食の試験の結果を見てみましょう4)

縦軸:収縮期血圧 横軸:塩分摂取量
N Engl J Med 2001;344:3-10.より引用

DASH食とは野菜・果物・低脂肪乳製品を多めに摂り、赤肉(牛・豚)・砂糖・清涼飲料水などを極力減らす食事です。
上図では、横軸が塩分摂取量で、1日の平均量は High(多い)8.4g、Intermediate(中間)6.4g、Low(少ない)3.8gです。

まず塩分量に限らず、通常の食事(Control diet)よりDASH食(DASH diet)の方が血圧が低いことがわかります。塩分摂取量が同じであっても、野菜や果物が多い食事は血圧が低いことがわかります。

さらに減塩の効果をみてみると、どちらの食事群でも減塩するほど(右に行くほど)血圧が下がっていることがわかります。この効果は血圧が高い人ほど高かったです。

ここから分かることは、DASH食などの健康食自体が血圧を下げる効果があり、減塩はさらにそれに相乗効果があるということです。

では、現在血圧が高くない人は塩分を控える必要はないのでしょうか。確かに、現在血圧が高くない人は減塩しても血圧低下効果自体は小さいですが、高血圧の発症を遅らせ、心血管病の発症のリスクを減らすことができます。血圧は年齢とともに上昇するので最終的には90%以上の人間は高血圧になりますが、前述のヤノマミ族は高齢になっても血圧が上昇しないことが知られています。

さらに、現在高血圧で薬を飲んでいる人には良い情報があります。減塩することで降圧薬の効果が増強することが知られています(ただしカルシウム拮抗薬以外)。例えばACE阻害薬やARBという薬では、減塩することでレニンというホルモンが増え、薬が効きやすくなります。減塩自体の降圧効果と、薬の増強効果で、一石二鳥です。

減塩の実践のコツ

まずどのくらいの塩分摂取量を目指せばいいのかをしっかり把握しなければなりません。
日本の高血圧学会では6g未満、WHOは5g未満、アメリカ心臓病学会は4g未満を推奨しています。
少ないほどいいですが、まずは現実的な値として6gを目指しましょう。

次に、自分が塩分をどこからとっているのかを知りましょう。
塩分は、食卓の塩や醤油からばかり体に入ってくるのでははなく、外食や、加工品に多く含まれています。
加工品とは冷凍食品・缶詰・スナック・ベーコン・ハム・ソーセージなど多岐に渡ります。

ファミレスのメニューを見てみて下さい。食事によっては1食で6gを超えています。
また、コンビニで売っているカップラーメンは5gぐらい入っています。

外食するときや、加工品を買うときは常にラベルを見て、何g塩分が入っているのかを確認してなるべく塩分が少ないものを選びましょう。ちなみにナトリウムで表示されている場合には、400で割ると塩分量になります(例:ナトリウム800mg=塩分2g)

もう一つ、減塩を始めた時に大事なことがあります。減塩を始めた当初は、味が薄すぎて、食事がまずく感じストレスが溜まると思います。しかし、10−14日すると舌が慣れてきて、薄味だと感じなくなってきます5)。それでも味が足りない時はハーブや、塩の入ってないスパイスや、酢などを使いましょう。

最近、興味深い研究が中国から発表されました。高血圧の患者20995人の研究で、食卓の塩を、減塩の塩(塩化ナトリウム75%+塩化カリウム25%)に変えることで、血圧が3.3mmHg低下し、脳卒中・心血管病・死亡率とも減るというものです6)

カリウムの摂取は血圧を下げることがわかっており、前述のDASH食でたくさん摂取するように指導される野菜や果物などに豊富に含まれています。ナトリウム塩をカリウム塩に変えることで血圧のみならず、脳卒中や心血管病や死亡率まで減らした点で画期的です。

ただし、腎臓が悪かったり、カリウムが上昇する薬を飲んでいる人は、高カリウム血症という不整脈が出やすくなる状態になる可能性がありますので、自己判断で始めずにかかりつけ医と相談してみてください。

参考文献
1) BMJ Open 2013;3:e003733.
2) N Engl J Med. 2014; 371: 601-11
3) Lancet 2002;363(9349);1903.
4) N Engl J Med 2001;344:3-10.
5) Am J Clin Nutrition. 1982;36(6):1134
6) N Engl J Med 2021;385(12): 1067

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この記事を書いた人

川口市安行吉岡で内科・循環器内科・糖尿病内科・呼吸器内科の診療を行っております。

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